このページの要点
- 任せる業務を資格ごとに確認し、診断・処方など医師の業務を行わないことを定める。
- 所属先のある有資格者には所属先の許可を求め、資格証の確認と行政処分の報告義務を置く。
- 臨床業務・採用支援・SNS運用など性質の違う業務は、方法・報酬・成果物の権利を書き分ける。
- 報酬の基準・確定・支払の手続と、事故のときの保険と最初の対応の担当を決める。
結論:資格の範囲・指示の出し方・情報の扱い・事故のときの分担を、業務ごとに書く
看護師・理学療法士・鍼灸師などにオンライン相談の相談員を頼む、歯科衛生士に採用の支援やSNSの運用、スポットの臨床業務を頼む、理学療法士に訪問リハビリを頼む、生活支援のスタッフに訪問を頼む――医療・介護・ヘルスケアの事業では、有資格者や現場のスタッフに業務委託で仕事を出すことが多くあります。一般の業務委託の論点(報酬、再委託、引抜きの禁止など)に加えて、この分野で特に書いておきたいのは次の四つです。
- その資格で行える業務の範囲と、行わせない業務。
- 医師などの指示が必要な業務の、指示の受け方。
- 患者・利用者の健康情報を扱うときの義務。
- 訪問先などで事故が起きたときの責任の分担と保険。
なお、業務委託とする場合の労働者性の判断や、労働・社会保険の手続は、このページでは扱いません。契約書の文言のうち、雇用と誤解されやすい書き方について触れるにとどめます。
相談員(看護師・療法士など)との業務提携
オンラインの健康相談の事業者が、医療系の国家資格を持つ人を相談員として迎える業務提携契約では、相談員に任せる業務を、修正版2で項目に分けて具体化しました。主なものは次のとおりです。
- 相談者の情報の取得・分析と、健康上の課題の抽出
- 資格の範囲内での助言・指導(生活習慣の改善、セルフケア、ストレスの管理など)
- 非侵襲的な方法による療法の支援(ドレナージの指導、圧迫療法の指導、リハビリテーション的な運動の指導など)
- 受診のための資料の整理と予約の補助
あわせて、医師法17条などを厳守し、診断・処方・治療・予後の判断その他医師の法定業務に当たる行為を一切行わないことを定めています(非医療の線引きの考え方は医療行為との線引き)。事業者が相談員の資格の範囲を正確に把握していないと、契約で任せた業務がその資格で行えない業務を含んでしまうことがあります。業務の列挙は、資格ごとに確認してから確定させます。
相談員が病院や診療所などに雇用されている場合は、所属先の代表者又は管理者の書面などによる許可又は同意を得ていることを、相談員との契約や誓約書で確認しておきます。病院に勤める看護師が副業で相談員をする場合、勤務先の就業規則や守秘義務との関係で問題が起きやすいためです。契約の締結のときに確認するだけでなく、勤務先が変わったときにも届け出てもらう形にしておくと、確認の手続が実際に機能します。
相談員から取る登録誓約書では、資格が有効であることの表明と保証、資格証の写しを事業者が保管することへの同意、行政処分・資格の停止・心身の状態について報告する義務、相談の録画・録音・スクリーンショットの禁止(利用者の明示の同意と事業者の承諾がある場合を除く)、独立した業務委託者であることの確認と、機材・通信費を自己負担とすることを定めました。相談員には、相談が医師の診療に代わるものではないことを利用者に明示する義務も課しています。利用者が相談員を医師の代わりと受け取ってしまえば、規約にどれだけ書いても非医療の線引きは崩れるため、相談の冒頭で相談員自身が説明することを約束してもらう形です。秘密保持契約では、顧客の情報に「健康状態、症状、相談内容、既往歴、画像…その他の医療情報」を明記し、相談の内容を講演・教材・研修資料に二次利用することや、個人の端末・個人のクラウドに保存することを禁止しています。秘密保持の存続期間は5年とし、個人情報や要配慮個人情報を含む場合は事業者の通知で延長できる形にしました。
報酬は、事業者が指定する商品などの売上に対する紹介報酬と、相談料に対する相談委託料の二つで、相談委託料は相談料の80%を基本に、評価によって最大90%まで上がる設計でした。どちらも、送料・手数料と、健康保険の診療報酬(保険診療の売上)を算定の基礎から除いています。また修正版3では、相談員がチャットで質問や相談の連絡を受けても、チャット上では答えず、有料の相談の予約を案内すること、無料で相談に応じることやそれに準ずる行為をしないことを定めました。相談員の善意の対応が、記録の残らない無償の相談になり、事業者が責任を把握できなくなることを防ぐためです。医療法人に相談員を出してもらう形の契約にも、この規律を引き継いでいます。
有資格者を相談員として迎えるときの点検
- 資格の種類ごとに、任せる業務がその資格で行える範囲か確認したか
- 医師の指示が必要な業務を含むなら、指示を誰がどう出し、どう記録するかを決めたか
- 所属先がある人について、所属先の許可を得ていることを確認する手続があるか
- 資格証の確認と、資格の停止・行政処分の報告の義務を定めたか
- 相談の記録の保存場所(個人の端末を使わない)と、録画・録音のルールを決めたか
- 相談員個人のSNSでの発信について、事前の承諾などのルールを決めたか
歯科衛生士の業務委託:性質の違う三つの業務を一つの契約に入れるとき
個人事業主の歯科衛生士が、歯科医院から採用の支援、Instagramの運用代行、歯科衛生士としてのスポットの勤務の三つを受ける業務委託契約を、受注する歯科衛生士の側に立って作成しました。採用の支援は求人媒体への掲載、候補者へのスカウトメールの送信、応募者との連絡の調整、面接の日程の設定と管理などの一連の支援、SNSの運用は週2〜3回の投稿の企画・制作・スケジューリングと歯科医療に関する啓発の情報の発信、スポットの勤務は医院が指定する診療所での診療の補助、予防処置、保健指導その他法令に基づき歯科衛生士が行える業務です。
三つの業務は性質が違います。採用の支援は事務の委託、SNSの運用は成果物(投稿)の制作を含み、スポットの勤務は診療所で歯科医師の指示の下に行う臨床の業務です。一つの契約にまとめる場合も、業務ごとに、実施の方法、報酬の決め方、成果物の権利、責任の範囲を書き分けておくと、どれか一つだけを終えたいときにも対応しやすくなります。この契約では、SNSの成果物の著作権は納品・提出の時に医院に移り、歯科衛生士は著作者人格権を行使せず、実績として紹介するには医院の事前の書面による承諾を要し、アカウントの情報やアクセスログなどの関連データも医院に帰属し引き渡す、と定めました。医療機関のSNSの投稿は医療広告の規制の対象になり得るため、投稿の表現を最終的に誰が確認するかも決めておきたい点です(医療広告ガイドラインと契約書)。
患者の情報について、この契約では秘密保持とは別の条を立て、「患者、顧客、取引関係者その他の個人を識別し得る情報」を個人情報と定義し、目的外の利用と第三者への提供の禁止、関係者に同等の義務を課すこと、漏えい時の報告と再発防止、契約終了後も義務が続くことを定めています。秘密保持は、業務委託契約の中の条(歯科衛生士だけが負う形)と、別に結ぶ相互の秘密保持契約の二本立てにしました。二本立てにするときは、秘密情報の定義や存続の期間がどちらによるのかを決めておきます。中途解約は双方が30日前の書面の予告で理由を問わずでき、歯科衛生士の責めによる解除で医院に特段の準備費用がある場合は、契約残額の20%を上限とする違約金としました。報酬は月末締め翌月15日払い、振込手数料は原則医院の負担、交通費などの経費は原則歯科衛生士の負担で、医院が事前に承諾したものは実費で精算します。
療法士に訪問リハビリを委託する契約
自費の訪問リハビリの事業者が、個人の理学療法士などに訪問を委託する業務委託契約も、事務所で作成しました。報酬は利用者への料金の一定割合(歩合)で、交通費は1回あたりの定額を支給する形です。版を重ねる中で、利用者向けの料金表の改定にあわせて報酬の基準も改め、料率は空欄にして当事者が決める形にしました。
事務所の書類での扱い 療法士への業務委託契約の版の変化
業務の進め方
療法士の裁量を広げ、事業者の指揮監督が及ぶと読まれる文言を減らす方向の改訂。
報酬
顧客向けの料金表の改定と連動させ、療法士の負担を軽くするため。
再委託
個人の療法士が再委託することを想定しない形に簡略化した。
利用者の健康情報について、療法士との契約では、個人情報に健康情報を含めると明記し、無断で第三者に提供することを禁じ、契約が終わったときは返還又は廃棄することを定めています。訪問の記録や利用者の連絡先を療法士が個人の端末に持ち続けることは、引抜きの問題と並んで、事業者がもっとも気にする点です。終了のときの返還・廃棄を、報酬の最後の精算と同じ時期に確認する運用にしておくと、実際に守られやすくなります。
契約期間中と終了後2年間、担当した利用者に同一又は類似のサービスを提供すること、顧客や取引先への勧誘、従業員・業務委託者の引抜き、名義貸しなどの間接的な関与を禁止する条項は、全ての版で維持しています。独立した療法士が担当の利用者を連れて辞める事態を防ぐための条項ですが、期間や範囲が広すぎると有効性が問題になるため、事業の実態に合わせて調整します。
同じ事業者が、今度は高齢者施設の運営会社から施設でのリハビリを受託する契約(事業者委託版)も作っています。月額の委託料は、毎月1日時点の施設の入居者の実人数に応じた段階制で、施設側が名簿で人数を算定して第5営業日までに示し、受託者は3営業日以内に異議を出せます。施設の都合による中途解除は30日前の通知を要し、1か月分の委託料を補償金として払うこと、リハビリの記録などの成果物の著作権は受託者に属し、施設には非独占的・無償で利用を許諾することを定めました。受託者に配慮した内容です。業務は「非医療的なリハビリテーションサービス」で医療行為を含まず、理学療法士・作業療法士などの適切な資格と技能を持つ者が遂行する、としています。
生活支援のスタッフ、講習での看護師の照射
介護保険外の生活支援(家事代行・買い物・通院の付添い・見守りなど)の事業者が登録スタッフに訪問を委託する契約では、報酬を売上の40%から始め、件数・売上に応じて45%・50%(上限)に上がる形とし、交通費は定額で支給しました。業務の日報を原則として当日中に出すこと、制服の指定に従うこと、指揮命令はなく雇用関係がないことの確認、個人情報の保護の研修の受講と誓約書への署名を定め、医療行為と介護保険の対象となる業務は行わないこととしています。同じ事業者の利用者との契約書では、原則として代表者本人がサービスを提供し、代表者以外のスタッフが担当する場合やスタッフを変える場合は、事前に説明して利用者の同意を得ることを定めました。高齢の利用者の自宅に入るサービスでは、誰が来るのかが利用者や家族の安心に直結します。スタッフとの業務委託契約と利用者との契約で、担当の決め方と変更の手順をそろえておくと、どちらの契約から見ても矛盾がなくなります。
医師・看護師向けのレーザー講習では、看護師の受講者が実地演習でモデルに照射できるのは、担当の医師の指示の下で行う診療の補助としてのみであり、照射がその範囲に属するかは担当の医師が判断する仕組みにしました(保健師助産師看護師法5条・37条)。実地演習の前には、会場の医療機関との書面(照射の実施、指示の出し方、費用、責任の分担、保険)を交わし、賠償責任保険に加入するよう求めています。有資格者が関わる業務では、資格だけでなく、指示を出す医師と場所(医療機関)を契約の中で特定することが重要です。
報酬の支払・報告・確認の手続
有資格者や現場のスタッフへの報酬は、訪問の回数や相談の件数、利用者への料金に連動することが多く、何を基準に、いつ確定し、いつ払うのかを契約で具体的にしておかないと、毎月の精算で行き違いが起きます。事務所の書類で採った手続を並べると、次のようになります。
| 契約 | 報酬の基準 | 確定と支払の手続 |
|---|---|---|
| 療法士への訪問リハビリの委託 | 利用者への1回あたりの料金の一定割合。交通費は定額 | 療法士の報告を事業者が確認し、不備や不正がないと認めた分を支払う。虚偽の報告が分かれば支払済みの報酬の返還を求められる |
| 施設からのリハビリの受託 | 毎月1日時点の入居者の実人数に応じた段階制の月額 | 施設が名簿で人数を算定して第5営業日までに提示し、受託者は3営業日以内に異議を出せる。修正版で20日締め翌月20日払いに |
| 歯科衛生士の業務委託 | 業務ごとに協議で定める月額又は業務ごとの報酬 | 月末締め翌月15日払い。振込手数料は原則医院の負担。事前に承諾した経費は実費で精算 |
| 生活支援スタッフの業務委託 | 売上の40%から、件数・売上に応じて45%・50%(上限) | 業務の日報を原則として当日中に提出 |
施設からの受託の契約では、施設側の支払が遅れた場合は催告なしに年14.6%の遅延損害金がかかり、遅延が1か月続けば受託者が解除できるとしました。秘密保持の義務は終了後5年間続きます。受託者の側から見ると、報酬の基準となる入居者の人数を相手方が算定する仕組みなので、人数を確認できる資料を受け取り、異議を出せる期間を確保しておくことが大切です。
歯科衛生士の業務委託では、契約期間を「単発」「6か月」「12か月」から選ぶ形にし、期間満了の1か月前までに更新しない旨の申出がなければ自動で更新する形にしました。業務の実施方法は非対面を基本とし、対面での実施は歯科衛生士が必要かつ合理的と判断した場合に協議して決める、という採用支援やSNSの運用に向いた書き方です。スポットの臨床業務は診療所での対面の業務ですから、勤務する日時・場所の決め方を別に定めておくと実態と合います。別に結んだ秘密保持契約では、秘密情報の返還と復元できない形での消去、消去の証明書の交付、違反のおそれがある場合の差止めを定めています。
報酬の確定の手続を委託する側が一方的に決める形にすると、委託先にとっては、いつ、いくら受け取れるのかが見通せません。報告の様式と期限、確認にかける日数、異議の出し方と期間、支払日を、委託先の側からも読める形で書いておくことが、長く続く関係の土台になります。
事故・クレームの分担と保険
訪問先で療法士やスタッフが利用者にけがをさせた、物を壊した、という事故への備えは、事業者と委託先の契約、事業者と利用者の契約の両方で考えます。療法士への業務委託の契約では、療法士又はその管理下の者の行為で第三者と紛争が起きた場合は療法士の責任で解決し事業者に損害を与えないこと、損害賠償は相互の過失責任とし間接損害や調査費用まで含めることを定めていました。生活支援の利用契約書では、事業者が賠償責任保険に加入し、加入後にその概要を利用者に示すことを定めています。
委託先に責任を負わせる条項を置いても、個人の委託先に賠償の資力がなければ、利用者への賠償は事業者が負うことになりがちです。事業者が保険に入るのか、委託先にも加入を求めるのか、事故が起きたときに誰が利用者や家族への最初の連絡と説明をするのか、を契約で決めておくと、実際の場面で動きやすくなります。利用者との契約での責任の書き方は訪問看護・自費サービスの契約書で扱っています。
ヒヤリングで確かめること 有資格者・スタッフとの業務委託で
任せる業務のうち、資格がなければできない業務はどれですか。
業務ごとに資格の確認と、行わせない業務の列挙をします。
医師・歯科医師の指示が必要な業務はありますか。誰が指示を出しますか。
指示を出す医師と場所を特定し、指示の記録の方法を決めます。
委託先は、利用者の健康情報や患者の情報を扱いますか。
秘密保持とは別に個人情報の条を置き、端末や保存場所のルールを決めます。
事故のとき、保険はどちらが入っていますか。
加入の有無と、最初の連絡・説明の担当を決めます。
起きがちなこと
よくあるご質問
病院に勤める看護師が副業で相談員をする契約で、確認すべきことは?
所属先の代表者又は管理者の許可を得ていることを確認する手続を契約に入れます。資格の有効性、行政処分や資格停止の報告義務、相談の記録の保存場所、録画・録音のルールもあわせて定めます。
歯科衛生士がフリーで複数の医院にスポット勤務する場合、業務委託契約で何を書きますか?
勤務する診療所と業務の内容、歯科医師の指示の下で行う業務であること、患者の情報の扱い、報酬と経費の負担を書きます。採用の支援やSNSの運用など性質の違う業務を一緒に頼む場合は、業務ごとに方法・報酬・成果物の権利を書き分けます。
療法士を業務委託で使うとき、「指示に従う」と書いてよいですか?
事業者が別に定めるマニュアルや指示に従う、監督・評価を受ける、といった文言が多いと、指揮監督が及ぶと読まれやすくなります。事務所の作成例でも版を重ねる中でマニュアルの部分を削りました。業務の質を確保したい点は、業務の内容と報告の方法で定める方が適しています。
訪問先で療法士が利用者にけがをさせたとき、責任はどう分かれますか?
利用者との関係では、事業者が責任を問われることが多くなります。委託先との契約で求償や紛争の解決の分担を定めても、委託先に資力がなければ実効性がないため、事業者と委託先のどちらが賠償責任保険に入るか、最初の対応を誰がするかを決めておきます。
相談員の個人のSNSにも医療広告の規制はかかりますか?
特定の医療機関への受診を誘引する内容なら、誰の発信であっても規制の対象になり得ます。事務所の書類では、相談員個人のSNSでの発信にも、医療機関名を含む広告と同じ規律と事前の承諾を及ぼしました。
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本ページは一般的な情報提供です。医療機関の開設・介護保険の指定などの許認可の手続、診療報酬の請求、労務の手続は扱っていません。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたクリニックのウェブサイトの利用規約・プライバシーポリシー、訪問看護・自費リハビリ・生活支援の利用契約書、医療機関との業務提携契約書、介護事業の譲渡契約書、歯科医院の契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で、医療広告の記述は厚生労働省の医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)で確認しています(最終確認日:2026年10月16日)。参考: e-Gov法令検索 / 医療法における病院等の広告規制について(厚生労働省) / 個人情報保護委員会