このページの要点
- 提携クリニックなど主催者の営業所でない会場での申込みは訪問販売(特商法2条1項1号)、オンライン通話の勧誘を経た申込みは電話勧誘販売(同条3項)、勧誘を伴わないフォームだけなら通信販売。
- 適用除外(同法26条1項1号)は名義でなく契約の実態で判断される。クーリング・オフの赤枠の中は無条件の告知にし、適用除外の説明は赤枠の外に置く(施行規則6条・7条)。
- 個別受講契約書(兼申込書・法定書面)と受講規約の二部構成にし、優先関係と規約の変更の手続(民法548条の2・548条の4)を書く。
- 段階式のキャンセル料は、時期ごとの平均的な損害から逆算し(消費者契約法9条1項1号)、訪問販売・電話勧誘販売の解除の上限(特商法10条・25条)とつなぐ。
結論:受講者が医師・看護師でも、申込みの導線ごとに適用される法律が決まる
医師や看護師向けの高額な技術講習は、受講者が医療の専門職であるため、「事業者どうしの取引」と受け取られがちです。しかし、特定商取引法(以下「特商法」)がかかるかどうかは、受講者の職業では決まりません。申込みをどのような場面で受けたか(導線)と、契約の実態で決まります。会場でその場で申し込めば訪問販売、オンライン通話での勧誘を経れば電話勧誘販売になり得て、ウェブのフォームだけで申し込んだときは通信販売です。1通の契約書で、この三つの導線のすべてに対応できるようにしておく必要があります。
事務所は、医師・看護師を対象にした美容レーザーの理論・実技の講習(複数のコース。対面の会場は提携先の医療機関)について、方針提案書、ヒヤリング、契約書類一式(個別受講契約書、受講規約、プライバシーポリシー、特定商取引法に基づく表記、同意書、ご説明書)を作成しました。依頼者のそれまでの講座受講契約書は、オンラインのスクール向けの汎用的なひな形を転用したもので、対面の実技講習の実態と合わなかったため、全面的に作り直しています。この記事では、実技演習の医行為、未承認機器の広告、モデルの情報といった医療の面を除いて、特商法と契約の構成を整理します。医療の面は、医療広告、有資格者との業務委託、情報提供の同意書で扱っています。
| 申込みの受け方 | 特商法の類型 | 主な根拠 | 主催者の義務 | クーリング・オフ |
|---|---|---|---|---|
| 提携クリニックなどの会場で、その場で申し込む | 訪問販売 | 法2条1項1号 | 氏名等の明示(法3条)、申込時・契約時の書面(法4条・5条)、不実告知などの禁止(法6条) | あり(書面を受け取った日から8日間、法9条) |
| 主催者がオンライン通話で勧誘し、申込みを受ける(申込みはフォームでもよい) | 電話勧誘販売 | 法2条3項 | 氏名等の明示(法16条)、再勧誘の禁止(法17条)、申込時・契約時の書面(法18条・19条) | あり(8日間、法24条) |
| 勧誘を伴わず、ウェブのフォームから申し込む | 通信販売 | 法2条2項 | 広告の表示(法11条)、申込み画面の表示(法12条の6)、前払いのときの承諾の通知(法13条) | なし(役務にクーリング・オフに当たる返品制度はない) |
表の中の「主催者」は、講習を企画して受講料を受け取る事業者を指します。
提携クリニックでの体験会・説明会:営業所等以外の場所での申込み
訪問販売とは、自宅への訪問営業だけを指すのではありません。販売業者や役務提供事業者が、営業所、代理店その他の主務省令で定める場所(営業所等)以外の場所で、契約の申込みを受け、または契約を締結する取引はすべて含まれます(特商法2条1項1号)。営業所等は、営業所、代理店、露店・屋台店、一定の期間にわたり商品を陳列して販売する店舗に類する場所、自動販売機などが設置された場所に限られます(同法施行規則1条)。提携先の医療機関を借りて開く体験会の会場は、主催者の営業所でも代理店でもなく、一定の期間にわたり店舗に類する形で使われる場所でもないことが多いと考えられます。そのような会場でその場で申込書を受け取り、または契約を結べば、相手が消費者として扱われる限り、訪問販売の規制を受けます。会場が営業所等に当たるかどうかは、使われ方の実態で判断されます。
主催者の常設の教室で契約する場合も、安心はできません。営業所等で契約しても、営業所等以外の場所で呼び止めて同行させた人や、政令で定める方法で誘引した人(特定顧客)が相手のときは、訪問販売になります(同法2条1項2号)。政令の方法とは、勧誘のためのものであることを告げずに営業所への来訪を要請すること(施行令1条1号)や、他の者に比して著しく有利な条件で契約できる旨を告げて来訪を要請すること(同条2号)です。勧誘の目的を告げずに「無料の体験会」として来場を促し、その場で申し込ませる運用は、特定顧客の誘引に当たるおそれがあります。案内の文面に、講習の説明と申込みの案内を行う場であることを明示します。
訪問販売に当たると、勧誘に先立つ氏名等の明示(法3条)、契約を締結しない旨の意思を示した人への勧誘の禁止(法3条の2第2項)、申込みを受けたときの書面(法4条1項。申込みの際に契約を締結した場合を除く)、契約を締結したときの書面(法5条1項)、不実告知などの禁止(法6条)が課されます。そして、消費者は、書面を受け取った日から8日間は、書面または電磁的記録により、理由を示さずに申込みの撤回や契約の解除(クーリング・オフ)ができます。その通知を発した時に効力を生じ(法9条2項)、事業者は損害賠償や違約金を請求できず(同条3項)、役務がすでに提供されていても対価を請求できず(同条5項)、受け取った金銭は速やかに返還しなければなりません(同条6項)。これに反する特約で申込者に不利なものは無効です(同条8項)。書面を交付しない、または法定の事項が記載されていない書面を交付したときは、6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります(法71条1号)。あわせて、法定の記載を満たす書面を受け取るまでは、8日間の期間が進まないものとして扱われます。
| 法が求める記載事項 | 根拠 | 個別受講契約書のどこで満たすか |
|---|---|---|
| 役務の種類 | 法4条1項1号 | コース区分、内容、実技演習の区分、使用する機器の位置づけを記入する欄 |
| 役務の対価 | 同項2号 | 受講料の欄(税込か否かを明記し、支払方法別の額を示す) |
| 対価の支払の時期と方法 | 同項3号 | 支払方法(銀行振込・カード決済)と支払期日 |
| 役務の提供時期 | 同項4号 | 受講日程、アフターサポートの期間 |
| クーリング・オフに関する事項 | 同項5号 | 赤枠・赤字のクーリング・オフの条 |
| 事業者の氏名・住所・電話番号(法人は代表者名) | 規則5条1号 | 署名欄の主催者の記載 |
| 申込み・締結を担当した者の氏名 | 規則5条2号 | 契約締結担当者氏名の欄 |
| 申込み・締結の年月日 | 規則5条3号 | 申込年月日と契約成立日の欄 |
| 契約の解除に関する定め | 規則5条8号 | キャンセル料、主催者からの解除、中止・延期の条 |
| 特約があるときはその内容 | 規則5条9号 | 受講規約を承認し、契約の内容とする条 |
「書面交付日」「契約締結担当者氏名」「申込年月日」は、法定の記載事項でありながら記入漏れが起きやすい欄です。当日に申込みを受けるときは、すべての欄を埋めてから写しを渡します。
体験会の当日に申込みを受けるかどうかは、事業の運営方針で決めます。事務所の方針提案書は二つの選択肢を示しました。当日は申込みを受けず、申込みは受講希望者が後日、別の場所から自分で行う運用にするか、当日の申込みを受け付け、その代わりに法定書面を兼ねる契約書面(赤枠のクーリング・オフ告知つき)を交付し、8日間は入金済みでも解除があれば全額を返す前提で運用するか、です。前者でも、会場でその場でスマートフォンから申込みフォームに入力させるような運用は、実態として会場での申込みの受付と評価され得るため、注意が必要です。
オンライン通話の勧誘と電話勧誘販売
電話勧誘販売とは、販売業者や役務提供事業者が、電話をかけ(または政令で定める方法により電話をかけさせ)、その電話での勧誘により、相手方から契約の申込みを郵便等で受けて行う取引です(特商法2条3項)。「郵便等」には、郵便や信書便のほか、電話機その他の通信機器または情報処理の用に供する機器を利用する方法が含まれ(同法施行規則2条)、ウェブの申込みフォームもこれに当たります。このため、ウェブ会議での個別相談のあとにフォームで申し込んでもらう流れは、通信販売ではなく、電話勧誘販売になり得ます。通信販売は、「電話勧誘販売に該当しないもの」と定義されているからです(同法2条2項)。
「電話」にオンライン通話が含まれるかどうかについて、消費者庁の「特定商取引法ガイド」にある「電話勧誘販売の解釈に関するQ&A」は、「電話をかけ」とは電話により通話状態に入ろうとすることをいい、インターネット回線を使って通話する形式(映像を伴う場合も含みます)も電話に当たる、としています。そして、ウェブ会議のツールを使う事例で、事業者がURLを送った場合は「電話をかけ」に当たる、と整理しています。消費者自身が申込みや契約のために電話をかけることを請求した場合は、電話勧誘販売の書面、禁止行為、クーリング・オフなどの規定の適用除外になりますが(法26条7項1号)、電話勧誘行為や、政令で定める行為(勧誘のためのものであることを告げずに電話をかけることを請求させる行為。施行令19条)によって請求させたときは、除外されません。
この整理からすると、受講希望者の側から予約を入れる導線にしても、実際にウェブ会議のURLを主催者が送って開催する以上、主催者が「電話をかけ」たと評価される余地があり、予約の導線の工夫だけで電話勧誘販売を避けられると考えるのは危うくなります。事務所の書類は、オンライン通話の勧誘を経た申込みを電話勧誘販売として扱い、個別受講契約書が電話勧誘販売の書面を兼ねる設計にしました。電話勧誘販売では、勧誘に先立つ氏名等の明示(法16条)、契約を締結しない旨を示した人への勧誘の禁止(法17条)、申込みを郵便等で受けたときの書面(法18条1項)、契約を締結したときの書面(法19条1項)、不実告知などの禁止(法21条)が課され、書面を受け取った日から8日間のクーリング・オフ(法24条)があります。
書面は、相手方の承諾を得て、電磁的方法で提供することもできます(法4条2項・18条2項など)。承諾は、あらかじめ、電磁的方法の種類と内容を示したうえで、書面または電磁的方法で得る必要があり(施行令4条1項・9条1項)、承諾を得たあとでも、相手方から電磁的方法による提供を受けない旨の申出があれば、その方法で提供してはならず(同条2項)、提供したときは、相手方のファイルに記録されたか、閲覧に支障がないかを確認します(同条3項)。事務所の個別受講契約書は、電磁的方法で提供するときは、あらかじめ承諾を書面または電磁的記録で得たうえで行い、承諾が得られないときは書面で交付する、と定めています。
- 本契約書は、本契約の申込み又は締結が特商法第2条第1項に規定する訪問販売に該当する場合における特商法第5条第1項の書面(特商法第4条第1項の書面の交付を要する場合には、同項の書面)を兼ねます。
- 本契約書は、本契約の申込み又は締結が特商法第2条第3項に規定する電話勧誘販売に該当する場合における特商法第19条第1項の書面(特商法第18条第1項の書面の交付を要する場合には、同項の書面)を兼ねます。
- 甲が本契約書(その写しを含みます。)の交付を受けた日(これより前に特商法第4条第1項又は第18条第1項の書面の交付を受けた日があるときは、その日)を書面交付日とします。書面交付日 年 月 日
「訪問販売に該当する場合」「電話勧誘販売に該当する場合」と、条件つきで兼用を宣言するのが要点です。どちらにも当たらない申込み(通信販売)は、兼用の対象外になります。
受講資格と名義区分:適用除外と、クーリング・オフの赤枠
この講習は、医師または看護師に限って受講できるとしています。医療の面の理由(照射の主体、資格の確認。医療行為との線引きを参照)に加えて、特商法の面でも、受講資格を限った事実を、申込書の保有資格の欄と免許証の提示で記録に残しておく意味があります。
特商法には、申込者が営業のために、または営業として締結する契約を、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売の規制から除く適用除外があります(法26条1項1号)。ただし、この除外は名義で決まるものではありません。消費者庁の「訪問販売等の適用除外に関するQ&A」は、お金を稼ぐつもりがあるというだけで直ちに該当するわけではなく、契約の対象になる商品や役務の種類、消費者が行っている(行おうとする)利益活動との関連性や目的、利益活動に必要な設備を準備しているかなどを踏まえ、その取引に習熟しているかを総合的に判断する、としています。医師や看護師の個人が、自分の技術を高めるために受講する場合、これが営業のためといえるかどうかは、受講の目的や、開業の有無などの事情によって変わります。
| 申込名義・場面 | 適用除外の見込み | 設計の方針 |
|---|---|---|
| クリニック・医療法人の名義で、院の研修として費用を負担する | 高い | 事業者間の契約として扱う |
| 開業医が、自院の診療メニューを増やすために個人の名義で受講する | 中程度から高い | 受講目的の申告欄で事業目的を明確にしたうえで、事業者として扱う |
| 勤務する医師・看護師が、自費で受講する(スキルアップ、将来の開業の準備など) | 低い | 消費者向けの規律(クーリング・オフ、消費者契約法に合うキャンセルの定め)を適用する前提で設計する |
最終的な適用除外の成否は、個別の事情で判断されます。そのため、除外に賭けない設計にします。
この考え方で、事務所の個別受講契約書は、申込みの名義を三つ(個人、個人事業主、法人)に分けて申告してもらいます。個人は事業のためではなく受講する場合、個人事業主は開業済みまたは開業準備中で事業のために受講する場合、法人は法人名義で、受講する人(受講指定者)を特定する場合です。あわせて受講の目的を具体的に記入し、保有資格と所属の医療機関を申告してもらい、本件機器が国内で承認・認証を受けた医療機器ではないことなどの説明を受けたことを確認するチェック欄を置きました(第5条)。申告された名義と契約の実態が異なるときは実態で判断し、判断のために開業届の写しなどの提示を求めることもあると定めています(受講規約第3条)。
クーリング・オフの告知は、特商法施行規則が様式まで定めています。書面には、書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載し(規則6条2項)、8ポイント以上の大きさの文字を使い(同条3項)、クーリング・オフに関する事項は赤枠の中に赤字で記載します(規則7条6項)。事務所の個別受講契約書は、この赤枠の中を「無条件の告知」にしました。赤枠の中に、「訪問販売に該当する場合に限る」といった条件や、事業者には適用されない旨の但書を入れると、必要な記載を欠くと評価されて、クーリング・オフの期間が進行しなくなるおそれがあるためです。受講する人は医師や看護師ですから、枠の中に適用除外を書くと、「自分は事業者だからできない」と誤解させかねません。クーリング・オフに関する事項について事実と異なることを告げた場合は、禁止行為に当たります(法6条1項5号)。誤認や困惑のためにクーリング・オフをしなかった人は、改めてクーリング・オフができる旨を記載した書面を受け取った日から8日間、クーリング・オフを行えます(法9条1項ただし書)。
そこで、どの申込みにクーリング・オフが適用されるかという説明と、営業のために締結する場合の適用除外(法26条1項1号)は、赤枠の外の条(第5条)に置きました。個人事業主名義や法人名義の申込みで、営業のために、または営業として締結するものに該当するときは、クーリング・オフの規定が適用されないことと、その判断は名義だけでなく契約の実態に基づいて行うことを、そこに書いています。
申込名義による扱いの違い
観点
個人(消費者)
個人事業主・法人(事業者)
クーリング・オフ
適用される(書面交付日から8日間)
営業のために締結する実態なら適用されない(法26条1項1号)。名義でなく実態で判断する
消費者契約法
消費者契約として、キャンセル料などに同法の規律が及ぶ(同法2条1項)
事業者として扱う(同条2項)が、キャンセル料の段階は同じ規約を適用する
裁判管轄
法定の管轄に加えて、主催者の所在地の裁判所にも提訴できる(付加的合意)
主催者の所在地の裁判所を専属とする
教材の共有
本人の学習と、自身の診療業務の範囲
受講指定者に限る。院内での共有は主催者の事前の承諾制
二部構成:個別受講契約書と受講規約
事務所は、依頼者の講座受講契約書(全19条)を、個別受講契約書(兼受講申込書、全13条)と受講規約(全37条)の二部構成に作り直しました。個別契約書は、申込みのたびに1通ずつ取り交わす記入式の書面で、コース、日程、会場、受講料、法定書面の宣言、申込名義と保有資格の申告、クーリング・オフの赤枠、キャンセル料、写真・動画の利用の同意を載せます。受講規約は全コースに共通する基本のルールで、受講資格、実技演習の安全管理、教材の知的財産権、秘密保持、損害賠償、規約の変更などを定め、個別契約書を補充します。
事務所の書類での扱い 講座受講契約書の構成(依頼者のひな形と、事務所の書類)
契約書の構成
対面の実技講習の実態に合わせ、法定書面と赤枠の告知を契約書面に組み込むため
合意の取り方
高額な対面講習では、明示的な合意を取るため
実態と合わない条項
紛争になったとき、実態と合わない条項は拠り所にならないため
二部構成では、書面どうしの優先関係を決めます。事務所の書類は、個別契約書の記載と受講規約の定めが抵触するときは、個別契約書が優先するとしました。受講規約は、民法の定型約款(民法548条の2第1項)に当たるものとし、その変更は、民法548条の4と受講規約の変更の条に従うこと、個別契約書で合意した事項は変更の対象にしないことを書いています。法定書面としては、受講規約も個別契約書と一体で、書面の一部を構成することを、個別契約書に明記しました(特商法4条1項6号、規則5条9号の「特約」に当たるため)。
受講料の分割払いにも定めを置きました。主催者が分割して受け取るときも、回数は2回以内、初回の支払期日から最終回の支払期日までの期間は2か月未満とし、これを超える分割払いは行いません。割賦販売法の「割賦販売」は、代金などを2か月以上の期間にわたり、かつ3回以上に分割して受領することを条件とするもの(同法2条1項1号)なので、この範囲に収めて、主催者自身が割賦販売を行うことを避ける設計です。クレジットカード会社との間の分割払いやリボルビング払いは、カード会社との別の契約によります。
段階式のキャンセル料、中止・振替、動画コース
受講者の都合による解除のキャンセル料は、事務所の書類では四つの段階にしました。受講開始日の31日前までは、事務手数料(一定額)。30日前から8日前までは、受講料の2割。7日前から前日までは、受講料の5割。当日以後(通知なく受講しなかった場合を含みます)は、受講料の全額です。消費者との契約では、解除に伴う違約金は、解除の事由や時期などの区分に応じて、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項1号)。そのため、段階ごとに実際に生じる費用から逆算します(医療・介護・自費サービスに共通する考え方はキャンセル料・返金で紹介しています)。ヒヤリングで確かめた実費は、受講者が1名であっても主催者が負担する航空券代、宿泊費、交通費でした。規約は、算定の根拠として、開催回の申込者の数、航空券代と宿泊費、会場の医療機関と機材の手配の取消しに要する費用、モデルなど関係者の手配の費用、開講が近い時期の代替の受講者の確保の難しさ、開始後の解除では提供済みの役務の対価と準備の費用を挙げ、消費者から求められたときは算定の根拠の概要を説明するよう努める(同条2項)としています。
| 解除の時期 | キャンセル料 | この水準にした理由 |
|---|---|---|
| 受講開始日の31日前まで | 事務手数料(一定額) | 再募集が可能な時期で、損害は事務のコストにとどまる |
| 30日前から8日前まで | 受講料の2割 | 会場の医療機関、機材、モデルなどの手配が確定し始める時期 |
| 7日前から前日まで | 受講料の5割 | 交通・宿泊の手配が確定し、代替の受講者の確保が難しくなる時期 |
| 当日以後(通知なく受講しなかった場合を含む) | 受講料の全額 | 提供の準備が完了している。全額を負担した受講者には、アフターサポートを残りの期間、引き続き提供する |
キャンセル料の条項は、他の規律とのつなぎ目で壊れやすい部分です。事務所の書類は、次の点を手当てしました。第一に、クーリング・オフが行われたときは、キャンセル料その他の金銭は一切生じず、受け取った金銭は全額返す、と優先関係を書きました。第二に、訪問販売や電話勧誘販売に当たる申込みの解除では、キャンセル料の額は、特商法10条・25条が定める上限を超えない、と書きました。役務の提供開始後の解除では、提供された役務の対価に相当する額、開始前の解除では、契約の締結及び履行のために通常要する費用の額に、それぞれ法定利率による遅延損害金を加えた額が上限です(法10条1項3号・4号、25条1項3号・4号)。第三に、日程が複数に分かれる講習では、各日程を別個の役務の提供として扱い、各日程に対応する受講料を、受講料を全日数で割って日程の日数を掛けた額としました。事務手数料は契約につき1回だけ生じ、具体的な日がまだ通知されていない日程には、通知までキャンセル料が生じません。そうしないと、第1日程が終わった直後の解約でも、一度も提供していない第2日程の受講料の全額を取ることになります。
主催者の側の事情による中止や延期も、返金とあわせて書きます。天災などの不可抗力、講師の急病などで必要な人員や機材を確保できない場合、最少催行人数に達しない場合(開始日の14日前までに通知したときに限る)に、講習の全部または一部を中止・延期でき、代替日程を提供するか、未提供の分の受講料(全部を中止したときは全額)を返します。返金は金額が確定してから30日以内に振込みで行い、振込手数料は主催者が負担します。受講者が欠席したときは、6か月以内に1回、別日程へ振り替え、振替先が未定や満席のときは録画などによる補講その他の代替措置をとります。受講料の支払の遅れには、年14.6%の遅延損害金を定めましたが、消費者との関係では、この割合を超える部分は無効になる(同法9条1項2号)ため、14.6%が上限であることを意識して設定します。訪問販売や電話勧誘販売に当たる契約では、支払が遅れたときの損害賠償額や違約金も、未払の額に法定利率による遅延損害金を加えた額が上限になります(特商法10条2項・25条2項)。
動画の視聴だけで受講できるコースは、別の整理にしました。動画を見るために必要なIDなどを交付する前の解除は、キャンセル料を取らず、受講料の全額を返し、交付した後の解除は返金しません。IDなどの交付で受講者が動画を視聴できる状態になり、主催者の主たる給付が終わるからです。ただし、クーリング・オフが行使されたときは、この定めにかかわらず全額を返します。
ヒヤリングで確かめること 受講契約を作る前に
申込みは、どこで、どの方法で受けますか。会場、オンライン通話、フォームのそれぞれについて教えてください。
導線ごとに訪問販売、電話勧誘販売、通信販売のどれになるかが決まり、必要な書面とクーリング・オフが変わります。
体験会の会場は、主催者の営業所ですか。提携先の医療機関ですか。
営業所等に当たるかどうかで、訪問販売の規制の有無が決まります。
体験会の当日に、申込みを受けますか。
受けるなら、その場で法定書面を交付できる体制と、8日間の返金を前提にした運用が必要です。
オンライン相談は、どちらから連絡し、誰がウェブ会議のURLを送りますか。
電話勧誘販売に当たるかの判断材料になります。
受講する人は、勤務する医師・看護師ですか。開業している方ですか。法人が費用を負担しますか。
名義区分と受講目的の欄を、実態に合わせて設計するためです。
開催にかかる実費は何ですか。受講者が1名のときも発生しますか。
キャンセル料の段階を、実際の損害から逆算するためです。
特定継続的役務提供・業務提供誘引販売との関係
継続的な講習なので、特定継続的役務提供に当たらないかという確認もしておきます。特定継続的役務は、法41条2項に基づいて政令で指定された役務の限定列挙で、施行令25条と別表第四に、エステティック、美容医療、語学の教授、学習塾(学校教育法上の学校の入学試験への備えや補習のための学力の教授)、家庭教師、電子計算機の操作に関する知識または技術の教授、結婚相手の紹介が掲げられています。医師・看護師向けの技術講習は、このいずれにも当たりません。別表第四の「美容医療」は、患者として施術を受ける契約の類型で、医療従事者向けの講習は含まれません。美容医療の契約そのものは美容医療の契約書と特定継続的役務提供で扱っています。指定外であることは、法定の中途解約権や上限額が適用されないという意味で、中途解約を一切認めなくてよいという意味ではありません。中途解約の場面は、消費者契約法や民法で規律されます。
もう一つ注意するのは、修了者に仕事を紹介することを前面に出した勧誘です。物品の販売や有償の役務の提供の事業で、その役務を利用する業務に従事することにより得られる利益を収受し得ることをもって相手方を誘引し、特定負担(役務の対価の支払など)を伴う取引をするものは、業務提供誘引販売業にあたり得て、広告の表示や書面、20日間の解除権(相手方が事業所等によらずに業務を行う個人の場合)などの別の規制がかかります(法51条1項、58条)。事務所の受講規約は、提携先の医療機関に関する情報の提供を、受講の勧誘に用いるものではなく、受講料の対価にも含まれないものとして書き、紹介、就業、収入を保証しないとしました。ただし、書類をそのように作っても、募集のページやセミナーで「修了すれば仕事を紹介します」と訴求していれば、実態で判断されます。
起きがちなこと
よくあるご質問
受講者が医師・看護師なら、クーリング・オフは不要ですか。
職業では決まりません。特商法の適用除外は、営業のために、または営業として締結する契約が対象で、名義でなく実態で判断されます。勤務する医師・看護師が自費で受講する場合は、消費者として扱う前提で、会場やオンライン通話の導線に応じた法定書面とクーリング・オフの告知を用意しておくのが安全です。
提携クリニックでの体験会で申込書を受け取るとき、何を渡す必要がありますか。
その場の申込みは訪問販売になるため、法定の事項(役務の種類、対価、支払の時期と方法、提供時期、クーリング・オフ、事業者の氏名・住所・電話番号、担当者の氏名、年月日、解除の定めなど)を記載した書面を、直ちに交付します。個別受講契約書を法定書面と兼ねる形にし、書面交付日などの欄をすべて埋めて写しを渡します。
ウェブ会議で説明したあと、フォームで申し込む場合もクーリング・オフが必要ですか。
消費者庁のQ&Aは、インターネット回線を使った通話も電話に当たり、事業者がURLを送った場合は「電話をかけ」に当たる、としています。この場合の申込みは電話勧誘販売になり得て、書面の交付とクーリング・オフ(8日間)が必要です。予約の導線の工夫だけで避けられると考えるのは危うくなります。
個別受講契約書と受講規約を、1通にまとめてもよいですか。
まとめることもできますが、コース、日程、受講料などを記入する書面と、全コース共通の基本ルールを分けると、申込みのたびの記入と法定書面の管理が楽になります。分ける場合は、書面どうしの優先関係と、規約の変更の手続(民法548条の2・548条の4)を書き、規約も法定書面の一部として交付します。
開講直前の解約で、キャンセル料を全額取れますか。
消費者との契約では、解除の時期ごとに、同種の契約の解除で事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項1号)。当日以後の解除で全額とする場合も、航空券代や宿泊費、会場の手配の取消し費用など、実際の損害から算定の根拠を説明できるようにします。クーリング・オフが行われたときは、全額を返します。
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