このページの要点
- 業務の範囲、成約の定義、紹介状の有効期間、複数の紹介事業者が関わった場合の扱いを契約書で決める。手数料の発生時点が事業者ごとに違うと二重払いになる。
- 紹介手数料は月額を基準にし、入居者の介護度や医療の必要度に連動させない。高額な手数料と引き換えに優先的な紹介を求めない(有料老人ホーム設置運営標準指導指針12(6)三)。
- 短期の退去・死亡の返金は、老人福祉法29条10項(入居後3か月・日割り)を参考に、対象期間、計算、報告と返還の手順、お祝い金との相殺を決める。
- 入居を考える人には、提携施設だけを紹介していることと施設から手数料を受けていることを説明し、病歴などの心身の情報は同意を得た範囲だけ施設に渡す。
結論:紹介事業は法律が細かく決めていない分、契約書と表示が規律になる
有料老人ホームや介護施設への入居を考えている高齢者と家族に、施設の情報を提供し、見学を調整し、入居までを相談に乗る事業を、ここでは「紹介事業」と呼びます。紹介事業者は、入居を希望する人から料金を取らず、施設から、入居が決まったときに紹介の手数料を受け取るのが一般的です。高齢者向け住まいの業界団体である高齢者住まい事業者団体連合会(高住連)が、厚生労働省の検討会に提出した資料(2025年4月28日)は、この事業は、物件の説明や入居条件の交渉に紹介事業者が関与しない仕組みを前提に、宅地建物取引業に当たらないと整理されている(経済産業省のグレーゾーン解消制度による回答)一方で、法律で規定されることも、行政への届出や相談員の資格制度もなく、誰でも始められる事業になっていること、運営の透明性、公平・中立性、相談の質に課題があることを挙げています。法律の枠が薄い事業ほど、当事者の間の契約書と、入居を考える人への表示と説明が、実質的な規律になります。
紹介事業の三者の関係
- 入居を考える人・家族紹介事業者に相談し、施設の情報を受け取る。入居の契約は、施設との間で結ぶ。
- 紹介事業者施設の情報を提供し、見学を調整し、相談に乗る。施設から手数料を受け取る。
- 施設入居希望者に説明し、入居契約を結ぶ。成約したら、紹介事業者に手数料を支払う。
お金は施設から紹介事業者へ、心身の情報は入居を考える人から紹介事業者を通って施設へ流れます。契約書で決めるのは主に前者、同意書で決めるのは後者です。
事務所が見た紹介事業の契約から、決めておくべき事項を挙げると、次の五つです。
- 紹介事業者と施設の業務委託契約で、業務の範囲、成約の定義、紹介の有効期間、複数の紹介事業者が関わった場合の扱いを決める。
- 紹介手数料を、何を基準に、いくらにするか。入居者の介護度や医療の必要度に連動させない。
- 入居から短期間で退去した場合(死亡を含む)に、手数料をどう戻すか。
- 入居を考える人に、施設から手数料を受けていることや、紹介できる施設の範囲を説明し、勧誘のやり方を制限する。
- 入居を考える人の心身の情報を施設に渡すときの同意の取り方を決める。
このページは、施設に入居する人を紹介する事業を扱います。クリニックへの集患の成果報酬は集患・成果報酬・紹介料の契約、介護事業の譲渡やマッチングのシステムの運営者の契約は介護の事業譲渡契約に整理しています。介護職の人材紹介は、ここでは扱いません。
紹介事業者と施設の業務委託契約:業務と成約をどう定義するか
事務所が見た、高齢者と入居施設をつなぐ仲介の業務委託契約書は、施設を委託者、紹介事業者を受託者とし、委託の内容を次のように並べていました。入居施設を探している人に施設を紹介し、説明し、相談を受けること。施設に対して入居を検討している人の情報を提供するときは、その人の同意を得たうえで、その範囲で行うこと。見学の希望があったときは、見学者の情報と日時などを、施設が定める書式に記入して、ファクシミリ、メール、郵送などで施設に伝えること。これらに付随する業務。入居を考える人の情報の提供に「同意を得たうえで、その範囲で」という限定を、委託業務の定義の中に入れた点が、この種の契約の重要なところです。
手数料の発生は、紹介により、入居者と施設の間で契約が成立し、入居した場合としていました。同居する二人が入居した場合も、人数分の手数料が発生します。支払は、入居した月の末日までに紹介事業者が請求書を送り、施設が翌月末日までに振り込み、振込手数料は施設が負担する、という流れです。契約が途中で終わったときは、それまでの履行の割合に応じた委託料を支払う、という定めもありました。このほかに、再委託の禁止(施設の書面による許可がある場合を除く)、相互の秘密保持、契約期間と自動更新、暴力団等の排除、合意管轄の条項を置いています。
成約と紹介の有効期間:実務で紛争になる箇所
業界団体は、施設と紹介事業者の斡旋契約について、トラブルになりやすい点を整理した留意事項(2024年11月版)を取りまとめ、厚生労働省の検討会に参考資料として出しています。そこに挙がっているのは、たとえば次のような事例です。
- 同じ入居希望者に二社以上の紹介事業者が関わり、一社は資料請求の時点、もう一社は見学設定の時点で手数料が発生するとしていたため、成約したときに両方から請求を受けた。
- 数年前に資料請求をした人が、別の経路で入居したのに、前の紹介事業者から請求書が届いた。紹介の有効期間が定められていなかった。
- 紹介された人を自社の施設で受け入れられず、他の施設を案内したのに、紹介事業者から手数料を請求された。
- 入居の成約に至った経緯への関与の濃さが考慮されず、手数料が一律になっていることに、施設が納得していない。
これらを防ぐために、留意事項は、顧客情報を「紹介状」の書式で受け渡すこと、紹介状に記載する項目(発信日、紹介事業者名と担当者、入居検討者と相談者の氏名と連絡先、個人情報の提供に関する同意、紹介行為に関する同意など)、紹介状の有効期間(例として発行日から1年。実務上は3か月、6か月、1年などが考えられるとされています)、有効期間が過ぎたあとの扱い、複数の紹介事業者が関わった場合は見学の予約を先に取り付けた者を優先すること、受け入れられない場合は施設が速やかに紹介事業者に報告すること、を条文に書くよう示しています。
| 事項 | 決めること | 決めないと起きること |
|---|---|---|
| 成約の定義 | 入居契約の成立(入居日を基準にするか、契約日か)、同居二人の扱い | 請求の時期と人数で争いになる |
| 紹介状と有効期間 | 受け渡しの書式、記載項目、有効期間と、期間後の扱い | 古い紹介にさかのぼって請求される |
| 複数の紹介事業者 | 手数料を受ける権利の発生時点、先後の判定、重複時の減額 | 二社に二重に払う |
| 受け入れができない場合 | 施設から紹介事業者への報告、他の施設を案内した場合の手数料 | 他の施設への案内の手数料を請求される |
| 情報提供の同意 | 入居希望者の同意を得た範囲の情報だけを施設に渡すこと | 同意のない情報が施設に渡る |
| 費用の負担 | 紹介事業者の媒体の制作費、見学の交通費、キャンペーン時の条件 | 取決め以外の費用を請求される |
業界団体の留意事項が示す論点を、事務所が見た契約書の条項に重ねて整理した表です。
紹介事業の契約書では、「委託料」「紹介料」「紹介手数料」など、同じ金銭を指す言葉が混在しやすくなります。支払の対象を一つの言葉に定義して、全体でそろえます。当事者を「甲」「乙」で書く契約書は、施設と紹介事業者のどちらが甲なのかを冒頭で明示し、返金の条のように金銭の向きが逆になる条文で、主語を取り違えないようにします。
紹介手数料の算定:入居者の状態に連動させない
基準は、前払金ではなく月額を基にする
紹介手数料は、施設の入居の費用のうち、何を基準に計算するかで、金額が大きく変わります。同じ居室でも、入居の費用を前払金で支払う場合と月払いの場合とで、手数料が大きく違うと、紹介事業者が、手数料の高い居室を勧める危険が生じます。業界団体の留意事項は、手数料が社会通念上の範囲を超えて高騰しないようにし、入居する人の選択が当事者の利益のバランスに強く影響しないようにすることが重要だとし、条文の例では、手数料を定額又は月額利用料(家賃と管理費)の何か月分かで定め、前払金の設定がある場合は前払金を償却の期間の1か月分に割り戻した額とする、としています。
介護度や医療の必要度に応じて、手数料を変えない
令和6年12月6日付けの改正(老発1206第2号)で内容が加わった有料老人ホーム設置運営標準指導指針(厚生労働省老健局長通知)は、一部の有料老人ホームが、入居する高齢者が難病等の場合に、高齢者向け住まいの紹介を行う事業者に高額な紹介手数料を払っている事案が明らかになったことを踏まえて、情報提供等を行う事業者と委託契約等を締結する場合の留意事項を定めました(標準指導指針12(6)三)。次のとおりです。
- 入居希望者の介護度や医療の必要度等の個人の状況や属性に応じて手数料を設定するといった、社会保障費の不適切な費消を助長するとの誤解を与えるような手数料の設定を行わないこと。また、そのような手数料の設定に応じないこと。
- 入居者の月額利用料等に比べて高額な手数料と引き換えに、優先的な入居希望者の紹介を求めないこと。
- 情報提供等事業者の選定にあたり、提供するサービスの内容と、その対価である手数料の有無・金額をあらかじめ把握することが望ましいこと。
- 高齢者住まい事業者団体連合会が運営する「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」に届出を行い、行動指針を遵守している事業者を選定することが望ましいこと。
この指針は、都道府県等が定める指導指針の標準であり、技術的な助言の位置づけです。各都道府県等が別に指導指針を定めている場合はそちらが適用され、国の標準を参考に改正する場合は、できる限り速やかに行うこととされています。施設を運営する側は、指導指針に従う立場にあるため、契約を結ぶ紹介事業者に対して、入居者の状態に連動した手数料の設定には応じられないことを前提にします。
高住連も、届出事業者の遵守項目(2025年1月以降の届出)を改定し、手数料の金額の定めにあたっては、家賃・管理費等の自費部分に応じた平均的な紹介手数料から大幅に上振れした設定をしないこと、特に、要介護や要支援、がん末期や、厚生労働大臣が定める特掲診療科の施設基準等の別表第七に掲げる疾病等などの社会保障給付費をあてにしたとみなされる金額設定は厳に慎むこと、と定めました。倫理に反する行為の例としては、入居希望者の介護度や医療の必要度などの状況や属性に応じた手数料の設定、成約後のお祝い金やキャッシュバックなどの名目による顧客の誘導、ソーシャルワーカー等へのリベートの支払いを挙げています。
事務所の書類での扱い 医療の必要度に連動する手数料の二段設定
手数料の金額
令和6年12月の標準指導指針の改正以降、入居者の状況に応じて手数料を設定する契約には、施設は応じないこととされた。
手数料を二段に分ける定めは、令和6年12月の標準指導指針の改正を踏まえると、そのままでは置けません。今、同じ設計の契約書を作るなら、この二段の定めは置きません。すでに結んである契約が同様の設計である場合は、指針の改正を理由に、手数料の定めを見直すことになります。契約書に「法令や行政の指針の改正があったときは、手数料の定めを協議して見直す」旨の条項を置いておくと、見直しの根拠になります。
入居お祝い金と、手数料の関係
紹介事業者が、入居した人にお祝い金を支払う運用を取っている場合、手数料の返戻の計算と、お祝い金の関係を決めておかないと、争いになります。業界団体の留意事項は、お祝い金は一般に紹介事業者が自らの経費で支払うものなので、短期解約時の手数料の戻し入れ額から相殺しない形を、契約のひな形の考え方としています。一方、前述の高住連の遵守項目は、成約後のお祝い金などの名目による顧客の誘導を、倫理に反する行為の例に挙げています。お祝い金を出す設計にする場合は、この遵守項目との関係を、あらかじめ整理しておく必要があります。
入居後すぐの退去・死亡のときの手数料の返金
入居の契約が成立した後、数日や数週間で退去(死亡を含みます)となるケースは、紹介事業者にとっても施設にとっても想定すべき事態です。施設の側からは、入居が続かなかったのに、手数料の全額を払い続けるのは納得できない、という声が出ます。返金(戻し入れ)の定めは、次の三つを決めることです。いつまでの退去を対象にするか、いくら戻すか、どういう手順で戻すか。
返金の方式には、入居から一定期間(たとえば30日)以内に退去した場合に、受領した紹介手数料の一定割合(たとえば半額)を施設に返す段階式があります。施設が退去日を書面で紹介事業者に報告し、紹介事業者がこれを認めた場合に、一定の期限までに施設の指定する銀行口座へ振り込む、という手順を定める例もあります。段階式は、計算は簡単ですが、29日目の退去は半額が戻り、31日目の退去は戻らない、という段差が生じます。
老人福祉法の短期解約特例を参考にする
返金の対象期間と計算の参考になるのは、老人福祉法が、施設と入居者の間に定めるルールです。前払金を受け取る有料老人ホームの設置者は、入居した日から厚生労働省令で定める一定の期間内に、契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した場合に、前払金の額から省令で定める方法により算定される額を控除した額を返還する旨の契約を締結しなければなりません(老人福祉法29条10項)。省令は、入居後3か月が経過するまでの間の解除又は死亡について、家賃等の月額を30で除した額に、入居の日から契約が終了した日までの日数を乗じた額を控除して返還するとしています(老人福祉法施行規則21条1項1号・2項1号)。これを受けて、業界団体の留意事項は、手数料の返戻の対象を、老人福祉法を参考にして3か月とし、条文の例では、支払済みの手数料から、手数料を90で除した額に施設の利用日数を乗じた額を控除した額を、紹介事業者が施設に返還する、と日割りで定めています。
手数料の返金の方式の比較
観点
段階式(30日以内に半額)
日割式(3か月以内に日割)
対象期間
入居から30日以内
入居から3か月以内
返金額
受領した手数料の半額
支払済みの手数料から、手数料÷90×施設の利用日数を差し引いた額
計算の簡単さ
簡単。ただし段差が大きい
日数の計算が必要。段差がない
老人福祉法との関係
独自の設計
入居者への前払金の返還の考え方(3か月・日割)と対応する
施設の責めによる退去
条文に書いて除外するかを決める
施設の責めによる解約は、手数料の全額を支払う例が示されている
どちらが正しいということではなく、返金の対象とする期間と、日割りかどうかを、施設と紹介事業者の間で明確にしておくことが大切です。
- 入居契約が成立した入居者が、入居日から3か月以内に退去し、又は死亡したときは、施設は、その事由を書面で紹介事業者に報告します。この場合、紹介事業者は、支払済みの紹介手数料の額から、紹介手数料の額を90で除した額に入居日から退去日又は死亡日までの日数を乗じた額を控除した額を、施設に返還します。
- 前項の事由が、施設の責めに帰すべきものであるときは、紹介事業者は、前項の返還を要しません。
- 紹介事業者は、第1項の報告を受けた日の属する月の翌月末日までに、施設が指定する口座に振り込む方法により返還します。振込手数料は、紹介事業者の負担とします。
- 紹介事業者が入居者に対して、入居を条件にお祝い金その他の金品を提供した場合でも、これを第1項の返還額から控除しません。
業界団体の留意事項が示す考え方を参考にした条文例です。起算日、退去・死亡の扱い、返還期限、相殺の有無を、具体的に書きます。
返金条項を作るときに確認すること
- 対象期間の起算日を、入居契約の日ではなく、入居日にしているか。
- 「退去」に、死亡、長期入院後の契約終了、他の施設への転居を含めるかを決めているか。
- 施設の責めによる退去の扱い(返還を要しないか、減額するか)を書いているか。
- 同居の二人のうち、一人だけが退去した場合の計算を決めているか。
- 施設が報告する事項(退去日、事由)と、返還までの期限を書いているか。
- お祝い金や、未払いの別の手数料との相殺の可否を決めているか。
入居を考える人への説明と中立性
紹介事業者は、入居を考える人から料金を取らないのが一般的です。そのため、入居を考える人は、紹介事業者が「無料で中立に相談に乗ってくれる存在」だと受け取りがちです。実際には、紹介事業者の収入は、施設が支払う手数料であり、手数料を払う施設しか紹介できません。ここに、利益相反の構造があります。契約書や規約、ウェブサイトの表示は、この事実を入居を考える人に伝える設計にします。
高住連の遵守項目(2025年1月以降の届出)は、最初の項目として、入居検討者に、原則として各々の紹介事業者が個別に提携している高齢者向け住まいを紹介していること(すべての高齢者向け住まいから紹介しているわけではないこと)を説明する、と定めます。また、標準指導指針は、施設が紹介事業者を選ぶにあたり、紹介事業者が入居希望者に提供するサービス内容や、その対価である手数料の有無・金額を把握することが望ましいとしています。契約書の側にも、紹介事業者が入居希望者に対して、次の事項を説明する義務を書いておきます。
- 紹介事業者は、入居を検討する者に対し、紹介事業者が提携している施設の中から紹介していること、及び紹介の成約に際して施設から紹介手数料を受け取ることを、あらかじめ説明します。
- 紹介事業者は、紹介手数料の額の多寡によって、入居を検討する者に特定の施設又は居室を推奨してはなりません。
- 紹介事業者は、入居を検討する者に対し、入居の判断を急がせ、又は他の施設の検討を妨げる言動をしてはなりません。
- 紹介事業者は、施設の料金、サービス内容その他の条件について、事実と異なる説明、又は実際よりも著しく有利であると誤認させる表示をしてはなりません。
説明の内容と、勧誘の禁止事項を条文にしておくことで、施設が紹介事業者の言動に責任を持つ範囲を、あらかじめ明確にできます。
表示の面では、不当な表示の禁止(景品表示法5条)があります。有料老人ホームについては、「有料老人ホーム等に関する不当な表示」(平成16年公正取引委員会告示第3号)があり、標準指導指針も、誇大広告等で入居者に不当に期待を抱かせないよう、実態と乖離のない正確な表示をし、この告示を遵守することを求めています。高住連のコンプライアンスの例示は、景品表示法に抵触するおそれのある表現として、「業界No.1」「全国No.1」「すべてのホームを紹介」といった、一般消費者による合理的な選択を阻害する表現や、高い利益を得られると誤認させる表示を挙げています。
勧誘の方法にも制約があります。事業者は、消費者契約の締結について勧誘をするにあたり、消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を考慮して、必要な情報を提供するよう努めなければなりません(消費者契約法3条1項2号)。高齢者が、加齢により判断力が著しく低下し、現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、契約を締結しなければ生活の維持が困難になる旨を告げる勧誘は、契約の取消しの対象です(同法4条3項7号)。入居の契約は、入居を考える人と施設の間で結ばれます。しかし、事業者が第三者に消費者契約の締結の媒介を委託し、その第三者が不実告知や不安をあおる勧誘などをした場合にも、同じ取消しが認められます(同法5条1項)。施設が紹介事業者に入居者の紹介を委託している関係は、この媒介の委託と評価される可能性があり、紹介事業者の勧誘が原因で、入居者が入居契約を取り消す事態も、施設にとっては起こり得ます。紹介事業者の勧誘に起因して施設に生じた損害を、紹介事業者が負担する旨を契約書に書いておくのは、施設側の自然な要望です。
ヒヤリングで確かめること 入居希望者への説明を設計する前に
紹介事業者は、すべての施設を紹介しますか、提携した施設だけですか。
提携施設のみ紹介していることの説明文を、サイト・パンフレット・面談で統一するため。
入居を考える人から料金を受け取りますか。
受け取らない場合は、施設から手数料を受けることの説明が中心になる。受け取る場合は、別の契約を設計するため。
お祝い金やキャッシュバックを出しますか。
遵守項目との関係と、短期退去時の手数料との相殺を決めるため。
ソーシャルワーカーやケアマネジャーに、紹介料や謝礼を払いますか。
遵守項目が、倫理に反する行為の例に挙げているため。
入居を考える人の心身の情報を、施設に渡すときの同意
紹介事業では、入居を考える人の病歴、介護の必要度、認知症の程度、服薬、医療的なケアの有無といった、心身に関わる情報を、紹介事業者が本人や家族から聞き取り、施設に伝えます。病歴や、医師等による診療を受けた事実、障害があることなどは、要配慮個人情報に当たり、取得にはあらかじめ本人の同意が必要です(個人情報保護法20条2項)。これを施設という第三者に提供するにも、原則として本人の同意が必要です(同法27条1項)。紹介事業者が施設の委託を受けて業務を行う構成であっても、入居希望者の側から見れば、情報を自分から取得し、別の事業者に渡すことに変わりはありません。
事務所が見た契約書は、施設に対する入居検討者の情報提供を、「検討している方の同意を得た上で、またその範囲で」行う、と業務の定義の中に書いていました。業界団体の留意事項は、紹介状の記載項目に、個人情報の提供に関する同意と、紹介行為に関する同意を入れています。同意を得る場面と書式を決めるときの要点は、次のとおりです。
- 提供する情報の項目(氏名、連絡先、年齢、心身の状況、介護の必要度、医療的ケアの有無、希望の条件、家族の状況など)を具体的に書く。
- 提供先を、見学や入居の相談を希望した施設に限る。希望していない施設や、他の紹介事業者に情報を流さない。
- 利用目的を、見学の調整と入居の検討に限る。
- 同意の撤回の方法と、撤回したときの扱い、施設に断られた後の情報の削除の時期を書く。
- 家族やケアマネジャーが窓口になる場合は、本人の同意を誰が、どのように取ったのかを記録する。
事務所が見た介護事業者のマッチングサービスの規約では、依頼者(ケアマネジャーなど)が入力した情報のうち、個人を直接特定できない範囲の情報だけを、登録した事業所の全体に知らせ、受け入れに関心を示した事業所にだけ、追加の情報や個人を特定できる情報を渡す仕組みを書きました。依頼者が、複数の事業所に共有され得ることを含めて、本人や家族から同意を得る義務を負い、運営者は、依頼者と事業所の間の契約の当事者にならない、という整理です。一斉の通知の段階から個人が特定できる情報を出さない、という段階的な共有は、紹介事業にも応用できる考え方です。第三者提供の例外に当たらない共有を「例外」として規約に並べないことにも注意が要ります。個人データの第三者提供が許される場合は、法令に基づく場合など、個人情報保護法27条1項の各号に限られ、事業の便宜は含まれません。
判断能力が十分でない入居希望者の同意を、家族や成年後見人から取る場合の確認は訪問看護・自費サービスの契約書、プライバシーポリシーの書き方はクリニックのプライバシーポリシーに整理しています。
届出公表制度と、これからの制度
紹介事業に直接かかる法律がない中で、業界が自主的に作った枠組みが、高住連の「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」です。紹介事業者は、所定の項目を高住連に届け出て(毎年更新)、高住連は、届出のあった事業者を公表し、構成団体、その会員、厚生労働省に報告します。遵守項目が履行されない場合や、届出に虚偽があった場合は、公表が取り消されることがあります。届出の数は増え続けており、同じ検討会の資料では、2025年4月1日時点で625法人とされています。この制度は法律に基づくものではなく、業界団体の制度ですが、標準指導指針が、施設が紹介事業者を選ぶ際に、この制度に届出をして行動指針を遵守している事業者を選ぶことが望ましいとしているため、施設との契約では、届出の有無と遵守項目の履行が、事実上の条件になります。契約書に、紹介事業者がこの制度の届出を維持すること、届出が取り消されたときは施設に知らせることを書く例も考えられます。
国の動きにも触れておきます。高住連の資料は、厚生労働省の「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」(第2回)に提出されたものです。今後の制度の内容は、確定したものとして書ける段階にはありません。老人福祉法についても、有料老人ホームへの入居情報の提供を行う事業者に関わる規定を含む改正法が公布されていますが、施行の時期や内容は規定ごとに異なるため、このページでは日付を示しません。契約を結ぶ時点の条文と、所管官庁の公表資料で確認してください。法令や指針の改正があったときに、契約の内容を協議して見直す条項を置いておく理由です。
紹介事業者と施設の契約書を作る・見直すときの点検
- 業務の範囲(紹介、説明、相談、見学の調整)と、行わないこと(入居条件の交渉の代理、入居契約の締結)を書いている。
- 成約の定義、同居二人の扱い、紹介状の書式と有効期間、複数の紹介事業者が関わった場合の扱いを書いている。
- 紹介手数料を、月額基準の定額又は月額利用料の何か月分かで定め、入居者の介護度や医療の必要度に連動させていない。
- 短期の退去・死亡のときの返金の期間、計算、手順、施設の責めによる退去の扱い、相殺の可否を書いている。
- 紹介事業者が入居を考える人に説明する事項と、勧誘の禁止事項を書いている。
- 入居を考える人の情報を、同意を得た範囲だけ施設に渡すことを書いている。
- 高住連の届出の維持、法令・指針の改正時の見直しの条項を書いている。
起きがちなこと
紹介事業者の契約書は、手数料と返金の部分に目が行きがちですが、入居を考える人への説明と、心身の情報の扱いこそが、あとで施設と紹介事業者の双方を守ります。高齢者の見守りや生活サポートの契約は高齢者向けの見守り・生活サポート・終身サポートの契約に整理しています。
よくあるご質問
紹介手数料を、入居する人の介護度や病気に応じて変えてもよいですか?
避けるべきです。有料老人ホーム設置運営標準指導指針(令和6年12月6日付けの改正で加わった留意事項)は、入居希望者の介護度や医療の必要度等の個人の状況や属性に応じて手数料を設定するといった、社会保障費の不適切な費消を助長するとの誤解を与える設定を行わないこと、そのような設定に応じないことを求めています。高住連の届出遵守項目も、同様の設定を倫理に反する行為の例に挙げています。
入居後すぐに退去した場合、紹介手数料はどのように戻せばよいですか?
返金の対象とする期間、計算方法、手順を契約書に書いておきます。老人福祉法が入居者に対して前払金について定める短期解約の特例(入居後3か月以内の解除・死亡。日割りで計算)を参考にして、手数料を90日で割った日割りで返す例が、業界団体の留意事項に示されています。入居後一定期間内の退去で一定割合を返す段階式の設計もあります。施設の責めによる退去の扱い、お祝い金との相殺の可否も書きます。
施設を紹介する事業を始めるのに、許可や届出は必要ですか?
高住連が厚生労働省の検討会に出した資料は、この事業は法律で規定されておらず、行政への届出や相談員の資格制度もないと整理しています。ただし、個人情報保護法、消費者契約法、景品表示法などの一般の法令は適用されます。入居条件の交渉の代理や賃貸の媒介にまで踏み込むと、別の法律の問題になり得ます。業界団体の届出公表制度は法律に基づくものではありませんが、標準指導指針が、施設が届出事業者を選ぶことが望ましいとしています。
入居を考える人の病歴や介護の状況を、紹介事業者から施設に伝えるには、本人の同意が必要ですか?
必要です。病歴や医師等の診療を受けた事実などは要配慮個人情報で、取得にはあらかじめ本人の同意が要ります(個人情報保護法20条2項)。施設への提供にも原則として本人の同意が要ります(同法27条1項)。提供する項目、提供先、利用目的、撤回の方法を書いた同意書を用意し、家族やケアマネジャーが窓口になる場合は、本人の同意を誰がどう取ったかを記録します。
入居した人にお祝い金を出す運用は、問題ありませんか?
高住連の届出遵守項目は、成約後のお祝い金やキャッシュバックなどの名目による顧客の誘導を、倫理に反する行為の例に挙げています。お祝い金を設ける場合は、この遵守項目や景品表示法との関係を整理したうえで、短期の退去時の手数料の返還額と相殺するかどうかを、契約書に明記します。業界団体の留意事項は、お祝い金は紹介事業者の経費として、相殺しない形をひな形の考え方としています。
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本ページは一般的な情報提供です。医療機関の開設・介護保険の指定などの許認可の手続、診療報酬の請求、労務の手続は扱っていません。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたクリニックのウェブサイトの利用規約・プライバシーポリシー、訪問看護・自費リハビリ・生活支援の利用契約書、医療機関との業務提携契約書、介護事業の譲渡契約書、歯科医院の契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で、医療広告の記述は厚生労働省の医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)で確認しています(最終確認日:2026年10月21日)。参考: e-Gov法令検索 / 医療法における病院等の広告規制について(厚生労働省) / 個人情報保護委員会