このページの要点
- 家族が申し込む契約は、本人の明示的な同意を証する文書を受け取り、口頭の意思は日時・方法・同席者を記録する(民法3条の2、522条2項)。
- サポーターが現金を受け取る場合は許可制にし、振込の期限、区分管理、帳簿・領収書の提出、遅れたときの措置を書く(民法646条1項)。禁止業務と許可の条項を矛盾させない。
- 見守りは異変を必ず見つける約束ではなく、決めた頻度と方法で確認する約束。身体介護や医療行為は行わず、急変時は救急要請と緊急連絡先への連絡にとどめる。
- 身元保証・死後事務・預託金に踏み込むときは、令和6年6月の終身サポート事業者ガイドラインに沿い、重要事項説明書と契約書を交付し、預託金を区分管理し、死因贈与等を条件にしない。
結論:生活サポート・金銭の預かり・終身サポートは、契約の重さが違う
高齢者向けの見守り、家事や買い物の代行、通院の付添いを提供するサービスは、利用者が増えるにつれて、頼まれる内容が広がっていきます。「現金を渡すから買い物に行ってほしい」「入院するとき保証人になってほしい」「亡くなった後のことも頼みたい」。最初は生活の手伝いだった契約が、お金の預かり、身元保証、死後の事務へと重くなるにつれ、書類の作りも変わります。事務所が見てきた高齢者向けの生活サポートの利用規約・利用契約書・サポーター(個人)との業務委託契約から、整理すると次のようになります。
サービスの重さと、契約の作り方
観点
生活サポートが中心
終身サポート(身元保証・死後事務)に踏み込む
提供するもの
家事、買い物、通院の付添い、話し相手、見守り、家族の休息のための留守番
入院・入所時の連帯保証、緊急連絡先の受託、死亡後の葬送・行政手続・家財の整理
お金の扱い
利用料金の支払、買い物の立替や預り金
サービス費用の前払い(預託金)、通帳の管理、支払の代行
契約の期間
単発か、数か月から1年程度の継続
長期。死亡後まで続く
参照する基準
民法・消費者契約法・個人情報保護法。介護保険や医療との線引き
上記に加え、「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(令和6年6月)
契約者の確認
本人が原則。家族が申し込むときは本人の意思を確認して記録
意思能力の確認が特に重要。重要事項説明書と契約書の交付、第三者の立会いも検討
終身サポートのガイドラインは、身元保証等サービスと死後事務サービスの両方を提供し、本人と契約して事業として継続的に行う事業者を主な対象とします。日常生活支援だけを行う事業は主な対象ではありませんが、支援に関わるその他の関係者もガイドラインを参照することが望ましいとされています。
ガイドラインは、内閣官房、内閣府、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省が示した指針で、法律のように罰則を伴うものではありません。ただし、契約を結ぶ高齢者と家族、施設や医療機関が事業者を見るときの目安になります。そのため、生活サポートの事業者であっても、金銭の預かりや身元に関わる依頼を受ける可能性があるなら、ガイドラインの考え方を契約書に反映しておくのが現実的です。このページでは、家族が申し込むときの本人の意思の確認、金銭の預かり、見守りの範囲、緊急時の連絡、終身サポート、サポーターとの委託契約の順に整理します。判断能力が十分でない利用者と後見人等の確認は訪問看護・自費サービスの契約書、キャンセル料の設計はキャンセル料と返金に譲り、重ねて説明しません。
家族が申し込むとき:本人の意思を確かめた記録を残す
高齢者の生活サポートは、申し込む人とサービスを受ける人が別になることが少なくありません。離れて暮らす子が親のために申し込む、介護をしている家族が自分の休息のために留守番を頼む、といった場面です。事務所が整えた利用契約書では、サービスの利用対象者を、高齢者、高齢者を支えながら子育てをしている人、家族の介護の負担を軽くする目的でサービスを必要とする家庭の構成員の三つに分けて書きました。誰のためのサービスなのかを最初に書いておくと、申し込む人との関係を整理しやすくなります。契約を結ぶ人(契約者)は原則として利用者本人とし、家族・親族、法定代理人・成年後見人、本人から委任を受けた第三者も締結できるとしつつ、本人以外が契約するときは、本人の明示的な同意を得たことを証する文書(委任状、同意書その他の記録に残る媒体)を事業者に出してもらうことにしました。
「みなす」と書くより、記録を残す
本人が画面を操作できない、字を書くのが難しい、という場合に備えて、規約に「家族や介助者が代理人として同意でき、代理人の記録・報告に基づいて本人の意思が確認されたものとみなす」と書いた例を見ました。この種の定めについて、事務所がレビューで勧めたのは、本人の意思を確かめる手段(録音、書面、家族による確認の署名など)と、確認したことの記録(録音、議事録、電子記録)を残す仕組みを、契約書に明示することでした。あわせて、「みなす」という書き方には注意を促します。契約の成立の根拠は本人の意思であって、記録は、あとからその意思があったことを確かめる手段です。「記録があれば成立したものとみなす」と書くと、本人の意思がなくても成立するように読めてしまいます。確かめる手段と記録の残し方を条文にしておくほうが、利用者にとっても事業者にとっても、あとから争いになりにくくなります。
- 利用者が自ら申込みの画面を操作することが難しいときは、利用者の口頭の意思を事業者が確認したうえで、事業者が申込みの内容を入力することができます。
- 前項の場合、事業者は、確認した日時、確認した者、同席した者の氏名と利用者との関係、確認した内容を記録し、申込みの内容を利用者に読み上げて確認します。録音をする場合は、あらかじめ利用者の了解を得ます。
- 事業者は、申込みが完了した後、利用者又は契約者に、申込みの内容と前項の記録の概要を記載した書面(電磁的記録を含みます。)を交付します。
条文例です。契約が成立する根拠を「本人の意思」に置き、記録は確認の手段として書きます。
意思能力のない人がした法律行為は無効です(民法3条の2)。高齢の利用者との契約では、契約の相手方の意思能力を丁寧に確認することが前提になります。終身サポートのガイドラインも、契約の効力についての争いを防ぐ観点から、契約の締結時に医療・介護関係者や親族などの第三者の立会いを求めることが考えられるとしています。生活サポートの契約でも、立会いを必須にしなくとも、希望があれば家族や担当のケアマネジャーが同席できるようにする、という扱いは取り入れやすい対応です。
認知症であることを理由に、契約を終わらせる条項は慎重に
事業者の側に、「利用者本人の同意が得られず、合理的な同意の確認が困難な場合(認知症等を含みます)は、サービスを停止し、又は契約を解除できる」という条項を置く例があります。サービスを安全に提供できない場合に止める必要があるのは確かです。しかし、認知症という診断や、判断能力の低下そのものを理由に契約を終わらせる条項にすると、消費者契約法10条により、消費者の利益を一方的に害する条項として無効とされるおそれがあります。成年後見の開始の審判などを受けたことのみを理由に、事業者に解除権を与える条項は、無効と定められています(同法8条の3)。判断能力が低下しても、直ちに契約を終わらせるのではなく、家族や後見人等と相談して契約の継続の方法を探り、安全を確保できない具体的な事情があるときに限って、サービスの停止や解除を認める形にします。
ご相談と回答 回答フォームなどで同意を取る契約の有効性
契約への同意を、回答フォームで取ることにしています。有効でしょうか。
契約は申込みと承諾で成立し、書面の作成などの方式を要しません(民法522条2項)。フォームによる同意も、契約の成立の方式として直ちに無効になるわけではありません。ただし、あとから「同意していない」と争われたときに、フォームだけでは、入力した人が本人か、内容が改ざんされていないか、という点で証拠として弱くなるおそれがあります。契約書の全文を事前に交付し、フォームには「契約書の全文を確認したうえで同意します」という文言とチェック欄を置き、送信日時・回答者名・回答内容のログを保存し、契約書の写しを交付できる体制をつくります。契約の冒頭に、フォームによる同意が契約締結の方式であることを書いておく方法もあります。
お金を預かる・受け取る:場面を分けて、流れと記録を決める
金銭の扱いは、高齢者向けサービスで最も紛争になりやすい分野です。事務所は、お金が動く場面を三つに分けて、それぞれ別の条文にします。
お金が動く三つの場面
- 利用料金の支払利用者から事業者へ。銀行振込、決済サービスを原則とし、サポーターが現金を受け取る例外は許可制にする。
- 買い物の立替・預り金利用者の財布や預り金から買い物をして、レシートと釣銭を返す。上限額と精算の手順を決める。
- 財産の管理通帳、印鑑、キャッシュカードの預かり、公共料金の支払代行。これは別の契約(財産管理等委託契約)が要る。
三つめは、生活サポートの契約に含めず、提供しない行為として明記することも、含める契約を別に結ぶこともできます。含める場合の考え方は、終身サポートの項で説明します。
サポーターが現金を受け取る場合
サポーター(個人)が、やむを得ず利用者から現金で料金を受け取ってしまうことがあります。事務所が見たサポーターとの業務委託契約は、これを許可制にしていました。事業者の事前の書面による承諾を得たうえで受け取った場合に限り、受領した金銭を事業者の指定する口座に振り込む義務を負い、事業者は手数料を差し引いた残額を報酬として認定する、という構造です。この構造について、事務所のレビューは、次の点を補うよう指摘しました。
- 振込の期限(受領日から何営業日以内か)と、振込先の指定口座。
- 預かった金銭を自分の資金と分けて管理する義務と、事業者が求めたときに帳簿、領収書、振込の明細を出す義務。
- 振り込めない、遅れる、使い込んだ、という事態が起きたときの措置(催告、解除、損害賠償、報酬との相殺)。
- 受領の都度、金額、日時、利用者名、振込の予定日と済んだ日を記録して報告する義務。
- サポーターが利用者の金銭を預かる構図が、他人の資金を扱う別の規制の対象にならないかの確認。
民法も、受任者が委任事務を処理するにあたって受け取った金銭を委任者に引き渡す義務を定めています(民法646条1項)。契約書にこの義務の期限と手順を具体的に書くのは、民法の原則を運用できる形にするためです。
事務所の書類での扱い サポーターの賠償責任と、利用者への直接依頼の禁止
サポーターの賠償責任
個人のサポーターに、軽い過失でも全損害を負わせる設計は、現実には回収できず、事故の報告をためらわせる。責任の範囲は、保険の範囲とあわせて設計する。
利用者に対する直接依頼の禁止(利用者向け規約)
「直接依頼」の範囲が曖昧だと、スタッフとの連絡や贈り物まで含まれるのかが分からなくなる。
二つめの例で気をつけたいのは、直接依頼に関する取決めを、当事者ごとの書類に振り分けることです。利用者に禁止するのは利用者向けの規約、サポーターが直接依頼を受けた場合の措置(報酬との相殺、解除、違約金など)は事業者とサポーターの間の業務委託契約に書きます。サポーターは利用者向けの規約の当事者ではないため、サポーターへの措置を利用者向けの規約に書いても、サポーターを拘束しません。
買い物の代行:預かる金額、上限、レシート
買い物代行は、毎回の取引は小さくても、積み重なると預かり金の額が大きくなります。利用規約には、立て替えるのか、利用者から現金を預かって買うのかを書き、預かる場合の上限額、購入前に品物と金額を確認する方法、購入後にレシートと釣銭を返して精算書に署名をもらう手順を決めます。消耗品の費用を利用者の負担とするなら、使う前に価格を示して了解を得る流れを入れておかないと、あとから「頼んでいない」と言われやすくなります。作業の延長や内容の変更も同じで、利用者の了解の取り方(口頭か、電子か、書面か)を条文に書き、「作業の開始前に、サービス内容の確認書に署名をお願いする場合があります」といった確認書を使う方法を取り入れます。
禁止する行為と、許可する行為が矛盾しないように
サポーターの業務委託契約に、「現金、有価証券、多額の貴金属などの財産価値の高い物品の受領、保管、移動」を禁止する業務として書きながら、別の条で「事業者の承諾を得て利用者から金銭を受領した場合は振り込む」と定めている例がありました。この二つは、条文の中で線を引かないと、どちらの行為が許されるのか分かりません。禁止するのは「利用者の財産の保管・管理(通帳、印鑑、多額の現金など)」、許可するのは「承諾を得た範囲での、利用料金や立替金の受領」と、対象を書き分けます。
見守り・話し相手・通院の付添い:できることと限界を書く
見守りは「異変を必ず見つける約束」ではない
見守りのサービスを説明する文章に「安心」「見守り」という言葉が並ぶと、利用者や家族は、異変があれば必ず気づいてもらえる、と受け取ります。しかし、訪問や電話の頻度に限りがある以上、事業者が確実に約束できるのは、決められた頻度と方法で、状態を確認することまでです。サポーターとの契約では、見守りの業務を「日常会話、接触等を通じた心理的ケアおよび定期的な所在確認」と書いていました。「心理的ケア」という言葉は、医療や心理療法と受け取られかねないので、「話し相手」と書き換えるほうが安全です。
見守りの契約に書いておくこと
- 確認の方法(訪問、電話、メッセージ)と頻度、時間帯。この範囲外の時間に起きた異変には対応できないこと。
- 応答がないとき、緊急連絡先、管理会社、救急、警察のうち、誰に、どの順で連絡するか。
- 鍵を預かる場合、預かる目的と、入室してよい場合の条件。預からない場合に入室できないこと。
- 異変を見つけたときの、事業者が行うこと(連絡、救急要請)と行わないこと(医療行為、診断)。
- 家族の連絡先と、連絡してよい情報の範囲。
介護保険のサービス・医療行為との線引き
保険外の生活支援は、介護保険の対象になる身体介護や、医療行為を行うものではありません。医師でなければ医業をしてはならず(医師法17条)、入浴介助のような身体介護は、介護保険の訪問介護などで提供されることが多く、生活支援の事業者が引き受けると事故の危険と責任の重さが大きく変わります。規約の書き方で注意したいのは、除外の列挙に「ただし、緊急時及び軽微な日常支援は除く」といった例外を置くことです。事務所はレビューで、「軽微」の範囲が不明確になり、事業者とスタッフ、利用者の間で責任の分かれ目が曖昧になる、と指摘しました。「軽微」の例外は置かず、「身体介護は行わない」「緊急時に行うのは、救急要請と緊急連絡先への連絡であり、医療行為ではない」と書き分けます。サポーターとの契約では、医療行為、看護行為、身体介護、入浴介助その他の介護保険の対象となる業務と、法令上、免許、資格、登録、届出が必要な業務を、行ってはならない業務として挙げました。
| 業務 | 行うこと | 行わないこと |
|---|---|---|
| 見守り・話し相手 | 決められた頻度での所在確認、日常会話、異変時の連絡 | 24時間の監視、診断、心理療法 |
| 通院の付添い | 移動の同行、受付の補助、薬の受領、本人が希望した場合の診察室への同席 | 本人に代わっての医療の同意、医師の説明の判断、運転 |
| 買い物・家事 | 掃除、洗濯、調理、買い物の代行 | 危険を伴う作業、資格を要する作業、重量物の運搬 |
| 家族の休息のための留守番 | 家族が不在の間の見守り、声かけ | 身体介護、医療的な対応 |
業務の一覧は、提供の範囲を示すだけでなく、事故のときの責任の分かれ目にもなります。
通院の付添いについて、終身サポートのガイドラインは、医療に関する同意そのものは本人の身体・生命に関わる一身専属性の高いことであり、身元保証人や身元引受人等の第三者には同意の権限がない、との整理を示しています。付添う人が、医師の説明の場に本人の希望で同席することや、本人が書いておいた希望の書面を医師に渡すことは差し支えないとされています。生活サポートの付添いでも、事業者は本人に代わって医療の判断をしない、と規約に書いておきます。
緊急時の連絡:連絡先の取得と、駆けつけの範囲
訪問中の急変については、事業者は医療行為を行う義務を負わず、緊急連絡先への連絡と、必要に応じた救急要請を行う、と定めるのが基本です(条文例は訪問看護・自費サービスの契約書に掲載しています)。ここでは、訪問していない時間の異変と、緊急連絡先の受託について整理します。
申込みの際に、緊急連絡先の氏名、利用者との関係、電話番号、連絡できる時間帯、かかりつけの医療機関、持病や服薬、アレルギーの情報を、どこまで預かるのかを決めます。このうち、病歴や服薬の情報は、要配慮個人情報に当たります。要配慮個人情報は、あらかじめ本人の同意を得ずに取得してはなりません(個人情報保護法20条2項)。一方で、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるときは、本人の同意を得ずに第三者に提供できます(同法27条1項2号)。緊急時に救急隊や医療機関に情報を伝える場面がこれに当たります。それでも、救急隊や医療機関に何を伝えるかは、申込みの段階で一覧にして、本人の同意を取っておくほうが、緊急時に迷いません。
緊急連絡先を事業者自身が引き受ける場合は、体制の説明が欠かせません。ガイドラインは、緊急連絡先の受託について、夜間・休日の連絡体制と、医療機関や介護施設に駆けつけるタイミングを、あらかじめ利用者に説明しておくことが重要としています。連絡がつかなかったときのために、かかりつけ医や担当のケアマネジャーに事業者の連絡先を伝えておく、利用者の自宅の見やすい場所に連絡先を掲示する、といった方法も挙げています。駆けつけまで約束するのか、連絡の受付にとどめるのかによって、事業者が負う責任がまったく変わるため、契約書に書く内容と、事業者の実際の体制を一致させます。
ヒヤリングで確かめること 見守り・緊急時の対応を設計する前に
見守りの頻度と方法は何ですか。夜間や休日は対応しますか。
契約で約束する範囲と、事業者の体制を一致させるため。
鍵を預かりますか。預かる場合、誰が、どの条件で入室しますか。
入室の条件を決めておかないと、異変時の判断が現場のスタッフに委ねられるため。
緊急連絡先を事業者が引き受けますか。駆けつけますか。
責任の範囲を決めるため。
救急隊や医療機関に伝える情報の範囲は、申込みの時に同意を取りますか。
要配慮個人情報の取得と、緊急時の提供の根拠を整理するため。
終身サポートに踏み込むとき:身元保証・死後事務・預託金
入院や施設への入所の際に身元保証を引き受ける、亡くなった後の葬儀や家財の整理を引き受ける、その費用のために預託金を預かる。ここまで踏み込むと、契約は「高齢者等終身サポート事業」の領域に入ります。ガイドラインは、将来にわたる身元保証等サービスであること、死後事務サービスを含むこと、契約が長期にわたること、サービスの提供に先行して一部の費用が前払いされるため適正な履行を確認しにくいこと、判断能力の低下が懸念される高齢者を主な対象としているため契約者の意思能力をめぐって事後に争いが生じる可能性があること、を理由に、一般的な契約より利用者保護の必要性が高いとしています。
重要事項説明書と契約書を交付する
ガイドラインは、個々人ごとに提供するサービスの内容や費用、判断能力が低下した場合の対応方針などを、利用者本人との面談等を通じて丁寧に説明し、重要事項説明書として作成・交付することを求めています。例示されている項目は、次の十二です。サービス内容と費用、費用の支払方法、履行状況の確認方法、入院・入所等の場合の対応方針と医療に関する意思決定の支援、判断能力が低下した場合の対応方針、債務不履行や不法行為の場合の賠償のルール、解除の方法と返金の取扱い、預託金の管理方法等、死後事務のサービスの内容、寄附や遺贈の取扱方針、個人情報の取扱方針と管理体制、相談窓口です。契約書を作成し、利用者に交付することも重要とされています。
身元保証と、医療・介護の場面
連帯保証(身元保証)の契約をするときは、事業者が保証人として未払の費用を負担した場合に、契約者へどう求償するか、前払の預託金からどう充当するかを明示するよう、ガイドラインは求めます。一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約で、保証人が個人であるもの(個人根保証契約)は、極度額を定めなければ効力を生じません(民法465条の2第1項・2項)。この規定は、保証人が法人でない場合に適用されるため、事業者(法人)が保証人になる場合ではなく、利用者の親族などの個人に保証を求める設計にした場合に問題になります。なお、昭和8年の「身元保証ニ関スル法律」は、被用者の行為による使用者の損害を担保する雇用の身元保証を対象としており、終身サポートの身元保証とは別の法律です。
ガイドラインの注には、医療機関や介護保険施設は、正当な理由なくサービスの提供を拒否できず、身元保証人がいないことのみを理由に入院・入所を拒むのは不適当である、と厚生労働省の通知が示している旨が書かれています。「保証人がいなければ入院も入所もできない」と言い切って契約を迫る勧誘は、通知の内容と合わない説明であり、重要事項について事実と異なることを告げる行為として、取消しの対象になるおそれがあります(消費者契約法4条1項1号)。契約を結ばなければ現在の生活の維持が困難になる、と不安をあおる勧誘も、同法4条3項7号により取り消されることがあります。
死後事務の契約:委任者が亡くなっても終わらない
委任は、委任者の死亡によって終了するのが原則です(民法653条1号)。死後事務委任契約では、ガイドラインのとおり、「委任者が死亡した場合においても、本契約は終了せず、相続人は、委任者の本契約上の権利義務を承継する」と明記します。受任者には、委任が終了した後、遅滞なく経過と結果を報告する義務があります(民法645条)。亡くなった後の報告先は相続人になるため、推定相続人が複数いる場合は、特定の人に報告すれば足りる旨をあらかじめ契約に書いておくことも考えられるとされています。事務の範囲を決めるときは、利用者の意思に反しない限り、推定相続人にも事前に説明しておくことが望ましいとされます。
- 委任者が死亡した場合においても、本契約は終了せず、委任者の相続人は、委任者の本契約上の権利義務を承継します。
- 受任者は、本契約に基づく事務が終了したときは、委任者の相続人のうち、委任者があらかじめ指定した者に対し、遅滞なく、その経過及び結果を報告します。
- 委任者の相続人からの反対等により、委任事務の履行が不可能又は著しく困難となった場合には、受任者は、委任者の相続人に対する意思表示により、受任者としての地位を辞任することができます。
ガイドラインは、2項に当たる定めを例示しています。
死後事務で対応できない事項もあります。死亡届は、同居の親族などが提出するものとされています(戸籍法86条・87条)。ガイドラインは、任意後見人や任意後見受任者でない事業者は自分では提出できないとし、相続人がいるときは、死後事務委任契約に基づいて、亡くなった旨を速やかに相続人へ連絡することが重要だとしています。
預託金と、寄附・遺贈を契約の条件にしない
預託金は、サービス費用の前払いとして預かるお金で、事業者の運転資金との混在と、事業者が破綻した場合の利用者の被害が問題になります。ガイドラインは、①事業者自身の運営資金等とは明確に区分して管理すること、②利用者に定期的に管理状況を報告すること、が望ましいとし、これらを契約書に明記して利用者と共有するよう求めます。保全の方法としては、信託銀行又は信託会社との信託契約が望ましく、資金管理の知識・経験を有し財産基盤が充実している別法人に管理を委託する方法や、運転資金等と分けた預金で管理する方法も考えられるものの、破綻したときに利用者が十分な資金の還付を受けられない可能性があるとされています。通帳の管理をする場合は、利用者ごとに出納記録をつくり、領収書を保存し、利用者へ都度報告するのが望ましいとされます。
死因贈与契約、事業者への寄附、遺贈を、終身サポートの契約の条件にしたり、契約とセットにしたプランを設けたりすることは、真に利用者の意思に基づくものか疑義が残るため、避けるべきとされています。契約解除の違約金は、消費者契約法9条1項1号により、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効になり、利用者から説明を求められたときは算定根拠の概要を説明するよう努めなければなりません(同条2項)。事業者の責任を全部免除する条項も、同法8条により無効です。
終身サポートの契約を作る前の点検
- 重要事項説明書と契約書を、別の書類として作り、利用者に交付する。
- 預託金の額の根拠、区分管理の方法、報告の頻度、保全の方法、差し引いた費用の明細と、不足したときの追加預託の時期を書く。
- 死後事務委任契約に、委任者の死亡後も契約が終了しないことと、相続人への報告、辞任の定めを書く。
- 死因贈与、寄附、遺贈を、契約の条件にしない。
- 判断能力が低下したときの対応(任意後見、補助開始の審判の請求を促すこと)を書く。
- 医療に関する同意の権限が、事業者にはないことを書く。
判断能力が低下した場合の対応について、ガイドラインは、利用者と事業者の間で任意後見契約が結ばれているときは速やかに任意後見監督人の選任を請求すること、任意後見契約がないときは補助開始の審判等の請求を促すことを、契約書に明記するよう勧めています。事業者自身が任意後見人になる場合は、事業者が経営する施設やサービスの利用契約・費用の支払の代理権を設定しない、設定する場合は任意後見監督人が代理する旨を契約書に書くなど、利益相反に配慮します(任意後見契約に関する法律7条1項4号)。ガイドラインは、今後の課題として、事業者の認定制度等の検討なども挙げています。本ページは、令和6年6月のガイドラインを前提にしており、その後の改訂や制度の動きは、所管官庁の公表資料で確認が必要です。
自宅で勧誘して契約を結ぶ形態の事業者は、訪問販売(特定商取引法2条1項1号)に当たり得ることにも注意が要ります。その住居で契約の申込みや締結をすることを請求した者への訪問販売には、書面の交付やクーリング・オフなど、同法4条から10条までの規定が適用されませんが(同法26条6項1号)、見積りや相談のために訪問を頼まれただけで、この除外に当たるとは限りません。
サポーター(個人)との委託契約と、事故・保険
生活サポートの実際の提供を、個人のサポーターに業務委託で任せる事業者が増えています。サポーターが特定受託事業者(従業員を使用しない個人など。特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律2条1項)に当たる場合、事業者は、業務を委託したら直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日などを書面又は電磁的方法で明示しなければなりません(同法3条1項)。特定業務委託事業者に当たる事業者は、報酬の支払期日を、役務の提供を受けた日から起算して60日の期間内で、できる限り短い期間内に定めなければなりません(同法4条1項)。月ごとに締めて支払う場合の期日の数え方は、条文とガイドラインで個別に確認します。業務委託と雇用の区別、報酬の決め方、再委託の扱いなど、サポーターとの契約の一般論は、家事代行など別の分野でも整理されており、ここでは、高齢者向けのサービスで特に問題になる点だけを挙げます。
- 報告と緊急時の連絡:業務の後、翌営業日までに、所定のフォームで実施の日時、場所、内容、利用者の様子、異常の有無を報告する。利用者の健康状態の急変、転倒、行方が分からなくなったときなどの緊急事案は、直ちに電話等で事業者に連絡する。
- 禁止する行為:利用者と事業者を介さずに連絡や契約をする、利用者から金銭や物品を直接受け取る(事前の書面の承諾がある場合を除く)、再委託や名義の貸与をする、ハラスメントを行う、など。
- 報酬案内などの改定:報酬の基準を別の書類(報酬案内)に書いて契約の一部とする場合、事業者が改定を通知した後に、一定期間内に異議を述べなければ同意したものとみなす定めは、報酬の額など重大な変更には使わず、再同意を取る。
- 賠償と保険:サポーターの賠償責任の範囲を、故意又は重大な過失に限る。事業者が加入する賠償責任保険の種類、限度額、保険で補償されない場合の扱いは、利用者向けの規約にも契約書にも具体的に書く。
利用者向けの規約に「当社加入の賠償保険で補償する」と書くなら、保険の種類、補償の上限、保険で補填できない損害の扱い、保険証券の開示と請求の手続を書いておくと、利用者の信頼につながります。規約には、「サービスの範囲外の行為、二次的損害、精神的損害は補償の対象外とする」と書かれることがあります。しかし、事業者の債務不履行や不法行為による損害賠償責任の全部を免除する条項は、消費者契約法8条1項1号・3号により無効です。責任の一部を免除する条項も、故意又は重大な過失による場合まで含むものは同項2号・4号により無効になり、軽い過失の場合に限る旨を明らかにしていない条項も、同条3項により無効です。「精神的損害は補償しない」と書いても、慰謝料の請求が一律に排除されるわけではありません。免責は、「事業者に責任のない事由による損害には責任を負わない」という書き方にとどめ、一部を免除する場合は軽い過失の場合に限ることを明記します。
起きがちなこと
生活サポートの規約は、サービスが広がるたびに条文を足していくと、禁止と許可が矛盾したり、利用者向けの規約とサポーター向けの契約の内容がずれたりします。お金の預かり、身元に関わる依頼、死後の事務のいずれかを受ける可能性が出てきた時点で、全体の書類を見直すのが、最も確実な進め方です。判断能力が十分でない利用者の契約の確認は訪問看護・自費サービスの契約書、介護施設への入居を紹介する事業の契約は有料老人ホーム・介護施設の紹介事業の契約で整理しています。
よくあるご質問
家族が親のために申し込む場合、本人の同意は必要ですか?
必要です。契約者は原則として利用者本人とし、家族や法定代理人などが締結するときは、本人の明示的な同意を得たことを証する文書(委任状、同意書その他の記録に残る媒体)を事業者が受け取る設計にします。本人が画面を操作できない場合は、事業者が本人の口頭の意思を確認して入力し、確認した日時、方法、同席者を記録して、申込内容の写しを交付します。
サポーターが利用者から現金を預かってよいですか?
禁止する方法と、事前に承諾を得て許可する方法があります。許可する場合は、受領した金銭を事業者の指定する口座に何営業日以内に振り込むか、自分の資金と分けて管理すること、帳簿・領収書・振込明細を出すこと、遅れたときの措置、受領の都度の報告を契約書に書きます。通帳や印鑑の預かりは、生活サポートとは別に、財産管理の契約が必要になります。
見守りサービスで、利用者に異変があったのに気づけなかった場合、事業者は責任を負いますか?
契約で約束した頻度と方法で確認をしていたか、異変時に決められた連絡や救急要請をしたか、によって判断されます。見守りは、異変を必ず見つける約束ではなく、決めた範囲で状態を確認する約束です。そのため、確認の方法、頻度、時間帯、範囲外の時間には対応できないことを、契約書に書いておきます。責任を全部免除する書き方は、消費者契約法8条により無効です。
身元保証や死後事務を引き受けるときは、どんな書類が必要ですか?
「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」は、重要事項説明書と契約書を作成して利用者に交付すること、預託金を事業者の運転資金と区分して管理し定期的に報告することを求めています。死後事務委任契約には、委任者の死亡後も契約が終了しないこと(民法653条1号との関係)、相続人への報告を書きます。死因贈与や遺贈を契約の条件にするのは避けるべきとされています。
認知症の疑いがある利用者との契約を、事業者から解除できますか?
認知症という診断や、判断能力の低下そのものを理由とする解除は、慎重に扱う必要があります。成年後見の開始の審判などを受けたことのみを理由に事業者に解除権を与える条項は、無効です(消費者契約法8条の3)。家族や後見人等と相談して継続の方法を探り、サービスを安全に提供できない具体的な事情がある場合に限って、停止や解除を認める形にします。
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本ページは一般的な情報提供です。医療機関の開設・介護保険の指定などの許認可の手続、診療報酬の請求、労務の手続は扱っていません。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたクリニックのウェブサイトの利用規約・プライバシーポリシー、訪問看護・自費リハビリ・生活支援の利用契約書、医療機関との業務提携契約書、介護事業の譲渡契約書、歯科医院の契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で、医療広告の記述は厚生労働省の医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)で確認しています(最終確認日:2026年10月21日)。参考: e-Gov法令検索 / 医療法における病院等の広告規制について(厚生労働省) / 個人情報保護委員会