このページの要点
- 医師でなければ医業をしてはならない(医師法17条)。違反は3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金又は併科(同法31条1項1号)。
- 診断・緊急性の判断・受診の要否・医療機関の推奨などを、AI・チャットボット・オペレーターを含む手段ごと禁止する。
- 受診の案内は一律に禁じず、医師の判断と誤認される強い勧奨を避ける。医療を優先すべきときの中止と返金を書く。
- 公的な保険・福祉の制度の外であることを示し、制度の言葉をメニュー名に使わない。
結論:「医療行為ではありません」の一文ではなく、手順で線を引く
看護師や理学療法士が受けるオンラインの健康相談、外国人の患者の受診を支援するサービス、服薬の確認を助けるシステム、AIが対話するメンタルセルフケアのアプリ、子どもの発達支援――医療機関ではない事業者が健康に関わるサービスを提供するとき、規約には必ず「本サービスは医療行為ではありません」と書かれます。医師でなければ医業をしてはならず(医師法17条)、違反すれば3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金又はその併科の対象になる(同法31条1項1号)からです。
しかし、事務所がレビューや作成をしてきた書類で問題になったのは、その一文があるかどうかではありませんでした。医療的な対応を優先すべき場面が来たときに、サービスを一時止めるのか、申込みを断るのか、料金をどう扱うのか、という手順が書かれていないこと。そして、チャットやFAQ、オペレーターの応答、問診のフォームといった実際の画面や会話で、緊急度や受診の要否を示していれば、規約に何と書いてあっても実質的に医療判断に近づいてしまうこと。線引きは、規約の宣言と、禁止する行為の具体的な列挙と、場面ごとの手順の三つで作ります。
非医療のサービスで線を引く三つの層
- 宣言医療行為・診断・治療・処方を行わないこと、公的保険の対象でないことを規約に書く
- 禁止行為の列挙診断、緊急性の判断、受診の要否の判断、医療機関の推奨などを、手段(AI・チャット・オペレーター)を含めて列挙
- 場面ごとの手順医療的な判断を求められたとき、体調の急変、受診中の人の利用、医療を優先すべきときの中止と返金
禁止する行為を、手段まで含めて列挙する
外国人の患者の医療アクセスを支援する事業者と、オンライン診療を行う医療機関の業務提携のレビューでは、依頼者の原案が「緊急性・重症度に関する医学的判断を行わない」とするだけだった点を指摘しました。事業者は患者から症状・既往歴・服薬の状況を受け取るため、緊急性や受診の要否、診療科の適否、処方の見込みを判断したり、ほのめかしたりすると、実質的にトリアージ(重症度による振り分け)に近づきます。事務所が再構成した第1版では、事業者が行わない行為を9号に分けて列挙しました。
- 診断又は診断の補助
- 医学的な助言
- 処方の提案
- 緊急性の判断
- 受診の要否の判断
- トリアージ
- 医療機関の優良性の評価・推奨・誘導
- 受診の勧奨
- 効果を保証する表示
あわせて、これらの行為を行わない手段として「システム、AI、アルゴリズム、FAQ、チャットボット、オペレーターその他の手段」を特定し、利用者から診断などを求められたときは「これに回答せず、医療機関への相談、他の医療機関の受診、救急相談窓口への連絡又は救急要請等を案内するにとどめる」と定めました。医療行為の最終的な判断と責任は医療機関に専属し、事業者が渡す情報は医療機関にとって参考情報にすぎず、医療機関は自ら問診・確認を行う、という役割分担です。レビューの結論として、契約書だけでなく、チャットの画面、FAQ、広告、オペレーターの回答、アプリ内の表示まで一体として確認すべきことを伝え、第1版には医療機関が事業者のAIやチャットボットの利用状況を確認できる条項も置きました。
事務所の書類での扱い 医療アクセス支援の業務提携(依頼者原案→第1版)
非医療の限界
書類の宣言だけでは、実際の画面や応答で判断を示した場合のリスクを防げないため。
医療機関の案内
「このクリニックが適切」といった案内は、実質的な医療判断や誘導と評価されるおそれがあるため。
救急の扱い
利用者が救急の窓口と誤解しないようにし、補助する場合の立場を限定するため。
受診の案内をどう書くか
非医療の相談サービスでも、相談を受けた人に医療機関の受診を勧めたい場面はあります。オンラインの健康相談の事業者の書類では、個人の相談員との業務提携契約の修正版2で、根拠を明示して「医師法第17条その他関係法令を厳守し、診断、処方、治療、予後判断その他医師の法定業務に該当するいかなる行為も行ってはならない」と定めました。してはならない行為を「医師の業務に当たる行為」として特定しておくと、相談員が何を避ければよいのかが、医師法の枠組みと結び付いて明確になります。
相談員から取る登録誓約書では、「『受診すべきである』『今すぐ病院へ行くべき』等、医師による判断と誤認される強い勧奨」を禁止する一方、一般的な助言の範囲で受診を案内し、適切な窓口へつなぐことは相談員の義務にしています。受診を一切口にしてはいけないのではなく、医師の判断と取り違えられる言い方を避ける、という整理です。チャットで質問を受けても無料で答えず、有料の相談の予約を案内するルールも修正版3で加えました。チャットで実質的な相談が行われると、記録も責任の所在もあいまいになるためです。
子どもの発達支援の伴走サービスでは、通院中や服薬中でも利用できるとしたうえで、医師の指示や方針に「明らかに抵触する助言はしません」とし、受診などは「一つの選択肢として情報提供」するにとどめ、義務付けないと定めました。医療的な対応を優先すべきと合理的に判断した場合は、申込みを承諾しない、あるいは理由を説明して協議のうえ一時中止・解除でき、一時中止中は月額の決済を止めて当月分は按分して返金します。「医療を優先すべきとき」の出口を料金まで含めて書いた例です。
アプリ・システム:医療機器・緊急通報・最終確認の責任
服薬支援のシステムの規約では、法人向けに「医療行為、診断、治療、投薬の可否判断その他医療上の意思決定を提供するものではなく、医師、薬剤師その他の医療専門職による医学的又は薬学的判断を代替し、又はこれに優先するものではない」と定め、「医療機器としての承認、認証又は届出を前提とするものではない」と位置づけました。個人向けには、緊急通報の機能がなく、医療機関への連絡や救急対応の代わりにはならないことも書いています。服薬の実施の可否と最終的な確認・判断・実施の責任は、システムを使う施設の側が負うと定めました。顔認証の取り違えや薬剤の読み違いがあっても、最終の確認は人が行う、という前提を契約に置くためです。法人向けの利用者は「自己の業務として服薬管理業務を行う法人又は団体」に限り、介護施設・障害者施設・保育園・医療法人・薬局などを例に挙げたうえで、法令の遵守の状況や業務の内容を見て承認しないこともできる形にしました。最終確認の責任を負える体制のある利用者に限ることで、責任の分担の条項が現実に機能するようにしています。
個人向けのアプリでは、最終的な服薬の実施の判断と健康の管理の責任は、利用者又はその家族にあると定めました。家族が高齢の親の服薬を見守る使い方を想定し、アプリの通知はあくまで確認の補助であって、飲み忘れや飲み間違いを防ぐ責任をアプリが引き受けるものではないことを、利用者が読める言葉で示しておくための条項です。損害賠償の上限は直近3か月分の利用料金とし、故意・重過失の場合は除くことを明記しています。
AIと対話するメンタルセルフケアのアプリでは、医療法・医師法などに基づく医療行為を目的としないことに加え、自殺念慮などの危機的な状況では直ちに医師・医療機関・公的な相談窓口に連絡するよう案内し、運営者は利用者の状態を監視・検知・通報する義務を負わず、緊急通報の体制を持たないことを明記しました。歯科の受診を支援するアプリの規約のレビューでは、AIの回答について「一般的な参考情報」と書くだけでは足りず、正確性・完全性・有用性を保証しないことと、AIが生成した情報には誤りや不完全な部分が含まれ得ることを明示するよう勧めています(歯科の契約書)。
有資格者が関わる場合:看護師の照射、言語聴覚士の名称
資格を持つ人が関わっても、その資格でできる範囲は法律で決まっています。看護師は、傷病者などに対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者で(保健師助産師看護師法5条)、主治の医師又は歯科医師の指示があった場合を除き、医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはなりません(同法37条)。
医師・看護師向けのレーザー講習の受講契約では、当初、受講者は照射せず見学と指導を受けるだけの設計でした。依頼者から「2回目の講習で受講者自身がモデルに照射する」との回答があり、実技演習を「見学演習」と「実地演習」に分けています。実地演習では、モデルを会場の医療機関で施術を受ける者として受け入れ、担当の医師があらかじめ診察して適応を判断し、照射の条件と中止の基準を指示し、診療録に記載し(医師法24条1項)、立ち会い、経過を観察します。看護師の受講者の照射が診療の補助の範囲に属するかは担当の医師が自らの責任で判断し、否とするときは照射しません。依頼者への送信メッセージでは、看護師が照射できるのは主治の医師の指示の下で行う診療の補助としてのみであり、単なる練習台として照射する形では医師法17条の問題になる、と説明しました。レーザーによる脱毛などの照射が医行為に当たることは、平成13年11月8日の厚生労働省の通知(医政医発第105号)で示されています。受講の資格も、当初の「医師、看護師、准看護師その他の医療従事者」から「医師又は看護師に限る」に絞り、申込みの時に免許証などの提示を必須にし、実地演習に参加できるのは免許証で資格を確認できた人に限りました。講習の当日も携行と提示を求めています。資格を前提にした仕組みは、資格の確認を手続に組み込んで初めて機能します。
子どもの発達支援の伴走サービスの規約では、支援は医療行為ではなく、医師その他の医療従事者による診断・治療・投薬・処方・医学的判断・心理検査を行わないことに加え、「障害の有無、種類又は程度を判定し、又は診断名を付すことはありません」と書きました。保護者が最も知りたいことの一つが「障害なのかどうか」であるからこそ、それに答えないことを規約で明確にし、相談の場面でも同じ説明をする運用にしています。
ことばの相談の案件では、言語聴覚士は名称独占の資格で、資格のない人が家庭での関わり方を助言すること自体は禁じられていない一方、資格の名称を使うことや、医師の指示の下で行う一定の行為は資格がなければできない、とレビューで整理しました。依頼者が資格を持っていることを確認したうえで、規約では簡易な検査の結果を「専門機関の検査又は診断に代わるものではない」とし、学校に出す意見書や診断書は作らないこと、健康保険証や受給者証は使えないことを明記しています。
利用者に求めること:申告・禁止事項・体調の変化
線引きは事業者の側の約束だけでは完結しません。利用者に何を申告してもらい、何をしないよう求めるかも、規約で決めておきます。オンラインの健康相談の利用規約では、相談員に診断・処方・受診の勧奨などの医療行為を求めること自体を禁止事項とし、利用の停止の事由にも加えました。利用者が強く求めれば相談員が応じてしまう、という事態を規約の側から防ぐためです。相談の録音・録画やSNSでの公開も禁止事項にしています。
子どもの発達支援の伴走サービスでは、37.5度以上の発熱などがあるときは、子どもが参加するセッションと家庭での動画の撮影を控えるよう求めました。オンラインの支援でも、体調の悪いときに無理に参加させないことを明文にしておくと、事業者が中止を求めやすくなります。鍼灸院の継続コースの書面のレビューでは、施術に伴って起こり得る反応(眠気、倦怠感、内出血、赤み、痛みなど)を具体的に書くことと、妊娠、持病、通院歴、服薬、血液の病気、感染症、皮膚の病気、ペースメーカー、抗凝固薬、過去の施術のトラブルといった事項を事前に申告してもらう条項、虚偽の申告のときの扱い、施術の中止・延期の条項を加えるよう提案しました。
店舗型の健康サービスの規約では、自律神経の測定器や体組成の分析装置は一般的な健康指標の目安を示すもので、医療機器としての効能・精度・結果の正確性を保証しないとし、ペースメーカーの使用、人工の装具、ネイルアートなどが誤差の要因になることを利用者にあらかじめ承諾してもらう形にしました。そのうえで、医療上の判断や治療が必要な場合は速やかに医師などの判断を仰ぐことを利用者の義務として置いています。測定の結果を医療の指標として受け取られないようにするための手当てです。
ことばの相談の規約では、申込みを承諾しない事由として、「直接的かつ継続的な訓練又は学習指導を求め、実質的にことばの訓練施設又は学習塾に相当する利用」を挙げました。サービスの性質から外れる求めを最初の段階で断る根拠を置いておくと、提供の途中での行き違いを防げます。
ヒヤリングで確かめること 非医療のサービスの規約を作るとき
相談やチャットで、利用者から症状を聞くことはありますか。誰が答えますか。
答える人(有資格者か、AIか、オペレーターか)ごとに、禁止する行為と、求められたときの案内の手順を決めます。
緊急の連絡が来たとき、どう動きますか。
救急の窓口ではないことの表示と、救急要請・緊急連絡先への連絡の補助の範囲を決めます。
通院中・服薬中の人も利用できますか。
医師の方針に反する助言をしないこと、医療を優先すべきときの中止と返金を定めます。
サービスやメニューの名前に、医療や公的制度の言葉を使っていますか。
誤解されない名前に変えるか、規約と表示で制度の外にあることを明確にします。
公的な制度の外にあることを示す
非医療のサービスでは、医療行為でないことと同じくらい、公的な保険や福祉の制度の外にあることを示すのが大切です。利用者が保険の給付を受けられると思い込むと、料金や返金の争いになるからです。
| サービス | 規約での書き方 | あわせて定めたこと |
|---|---|---|
| 自費の訪問リハビリ | 医療行為ではなく、公的保険(健康保険・介護保険)の適用対象外であることを利用者は了承する | 高齢者向けの版でもこの一文は残した |
| 介護保険外の生活支援 | 介護保険外の生活支援サービスであり、医療行為、看護行為又は高度な介護技術を要する行為は含まない | 体調急変時は医療行為の義務を負わず、緊急連絡先への連絡と救急要請 |
| 保険外の訪問看護 | 医師の指示を伴わない医療行為、運転・送迎、金銭の管理は提供しない | 訪問看護指示書の取得の手順(訪問看護・自費サービスの契約書) |
| 子どもの発達支援 | 児童福祉法に基づく障害児通所支援などの公的な給付・制度に基づくサービスではなく、受給者証は使えない | 「個別支援計画」ではなく独自の「支援プラン」と呼ぶ |
| 店舗型の健康サービス | 医療行為・医療類似行為を提供するものではなく、精油・健康食品は食品又は雑貨で、疾病の治療・予防の効能を保証しない | 測定器は医療機器としての精度を保証せず、誤差の要因を事前に承諾してもらう |
「療育」「個別支援計画」「治療」のように、公的な制度や医療の言葉を、民間のサービス名やメニュー名にそのまま使うと、規約で否定していても利用者に誤解されます。言葉の選び方は、広告の規律とも関わります(医療広告ガイドラインと契約書)。相談員として有資格者に業務を委託するときの契約は有資格者との業務委託で扱っています。
起きがちなこと
よくあるご質問
看護師や理学療法士がオンラインで健康相談を受けるとき、契約で何を禁止すべきですか?
診断、処方、治療、予後の判断など医師の業務に当たる行為を禁止し、医師の判断と誤認される強い受診の勧奨を避けるよう定めます。一般的な助言の範囲で受診を案内することまで禁じる必要はありません。チャットでの無料の実質的な相談を禁じ、有料の相談に誘導するルールも有効です。
相談員が「病院に行った方がいい」と伝えてもよいですか?
事務所の書類では、一般的な助言の範囲で受診を案内し、適切な窓口へつなぐことを相談員の役割とする一方、「今すぐ病院へ行くべき」のように医師の判断と取り違えられる強い言い方は避けるよう誓約書で定めました。個別の症状から受診の要否を判断して伝える形になると、医療判断に近づくためです。
チャットボットで緊急度を表示する機能は、医療行為になりますか?
緊急性や受診の要否を判断し又は示唆すると、実質的にトリアージに近づくおそれがあります。事務所の書類では、AI・チャットボット・オペレーターを含む手段で緊急性の判断をしないことを定め、求められたら救急相談窓口などを案内するにとどめる形にしました。
服薬確認のアプリは、規約に「医療機器ではない」と書けば足りますか?
書くこと自体は必要ですが、それで医療機器に当たるかどうかが決まるわけではありません。医療上の意思決定を提供しないこと、医療専門職の判断を代替しないこと、緊急通報の機能がないこと、最終確認の責任が利用者側にあることを、機能の実態に合わせて定めます。
民間の発達支援で「療育」「個別支援計画」という言葉を使ってよいですか?
公的な障害児通所支援で使われる言葉を使うと、受給者証が使える、公的な計画を作ってもらえる、と誤解されやすくなります。事務所の書類では、公的なサービスではないことを規約に書き、計画は独自の「支援プラン」と呼ぶことにしました。
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本ページは一般的な情報提供です。医療機関の開設・介護保険の指定などの許認可の手続、診療報酬の請求、労務の手続は扱っていません。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたクリニックのウェブサイトの利用規約・プライバシーポリシー、訪問看護・自費リハビリ・生活支援の利用契約書、医療機関との業務提携契約書、介護事業の譲渡契約書、歯科医院の契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で、医療広告の記述は厚生労働省の医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)で確認しています(最終確認日:2026年10月16日)。参考: e-Gov法令検索 / 医療法における病院等の広告規制について(厚生労働省) / 個人情報保護委員会